このたび,本書『骨折ファーストタッチ』を世に送り出すことができる運びとなりました。もともとは「骨折画像診断」というテーマを掲げ,2年間にわたる連載としてスタートした企画でしたが,連載を続けるうちに「整形外科初期診療」に関する疑問や悩みが次々に浮かび上がり,自然とその幅を大きく広げることになりました。そうして完成した記事のひとつひとつには,「プライマリ・ケアの現場で役立つ整形外科診療のエッセンスを少しでも多く伝えたい」という筆者の熱い想いが脈々と流れています。
整形外科領域は,日常診療の中で最も身近な患者さんの悩みのひとつを扱います。何気ない転倒による外傷から,加齢に伴う慢性の関節痛,そしてスポーツに励む子どもたちのケガまで──。老若男女を問わず,様々な人が「痛み」や「動かしづらさ」を訴え,最初に受診するのは,しばしばプライマリ・ケアの先生方です。だからこそ,初期診療の段階でどのような思考回路をもってアセスメントし,いかに適切な検査・判断を行うかによって,その後の治療経過や患者さんの生活の質が大きく左右されます。
初期研修医の頃,わたし自身も「整形外科の外傷診療はハードルが高い」「画像のどこを見ればよいかわからない」「そもそも痛みの原因が外傷なのかどうかすら悩む」という不安を抱えていました。しかし,そこにほんの少しの“流れ”や“基準”があるだけで,症状の評価が見違えるほどスムーズになり,患者さんにとって納得感のあるケアを提供できるのだ──という実感を得た瞬間の感動は,今でも忘れられません。そんな「目の前にいる患者さんのハッピーのため,整形外科診療のハードルを下げたい」という願いこそが,本書の大きな原動力となっています。
本書は,プライマリ・ケア診療に携わる多くの医師たちが,整形外科領域で抱えている不安や疑問を解消し,日々の診療に自信をもって臨むための一助となることを願ってまとめられました。読者の皆さまには,単なる知識だけでなく,“患者さんの人生を見据えた診療”の大切さを一緒に感じ取って頂ければ,これに勝る喜びはありません。どうか本書が,忙しい診療現場で立ち止まったときに手に取り,活用して頂ける存在となりますように。そして,この想いが広く日本中に届き,整形外科診療に臨む医療者の背中をそっと支える一冊となることを,心から願っています。
2025年4月
JCHO若狭高浜病院整形外科医長/臨床研修センター長
海透優太