総合病院の若手循環器内科医のA先生。その日は病棟の送別会で飲酒したあと深夜に帰宅。さあ寝ようかと思ったところに,思いがけず病院から連絡がありました。心筋梗塞で入院中のBさんが起坐呼吸状態で苦しがっているとのこと。あいにく当直は消化器内科医で,主治医であるA先生は一刻も早く自分が処置にあたらねばと思い,車を運転して病院に駆けつけました。病院までの距離は目と鼻の先であり,風呂にも入ってかなり酔いは醒めています。ましてやわずかな遅れも許されない状況で,タクシーを呼ぶ時間が生死を分けるかもしれないと思ったからです。
病院到着後,飲酒状態であることを悟られないようにマスクをして診療にあたったA先生でしたが,幸い処置はうまくいきBさんはほどなく呼吸困難から解放されました。
A先生の行動のどこに問題があるのでしょうか。
まず,飲酒後に診療にあたった点についてですが,意外と思われるかもしれませんが,厳密には飲酒状態での診療は法律では禁じられていません。医師には応召義務が課せられているからであり,飲酒あるいは極度の疲労状態にあってもそのことが応召義務回避の正当な理由にはならないのです。
しかし,常識的には,判断力や注意力が低下したような状態での診療行為は慎むべきであり,今回のようなケースを避けるためには,診療科や病院の中で緊急呼び出し体制を整備し,当番の代行医には飲酒を禁止するなどのルールを設けることが重要です。
今回,A先生の最大の問題点は言うまでもなく飲酒運転です。医師には応召義務はあるものの,飲酒運転の権利はないことを肝に銘じるべきです。