□縦隔とは左右を肺に挾まれた領域で,壁側胸膜に覆われ,その胸膜腔間には心臓,大血管,気管および気管支,食道,リンパ管,神経が含まれる。
□胸郭上孔から胸骨下縁と第4~5胸椎間を結ぶ線を縦隔上部とし,それより下の縦隔(横隔膜上面まで)は前(胸骨後面から心膜間)・中・後縦隔(肺側心膜から第5~12椎骨の前縦脊椎靱帯)にわかれる。
□縦隔腫瘍とは縦隔内に発生する原発性腫瘍を総じて指すが,種類によって好発部位が異なる。
□半数は無症状であり,検診などで発見されることが多い。
□主な症状として以下の3つに分類される。
①全身的な非特異的症状(例:全身倦怠感,発熱,食欲不振,体重減少など)
②腫瘍による物理的影響によるもの(例:呼吸器系・循環器系・消化器系の諸症状,胸部圧迫感,胸~背部痛,嗄声,横隔神経麻痺や上大静脈症候群,ホルネル症候群,脊髄圧迫に起因する諸症状など)
③腫瘍の特性による随伴症状〔例:胸腺腫における眼瞼下垂・複視・流涎・四肢筋力低下などの重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)由来の症状や赤芽球癆による重度の貧血,胸腺カルチノイドに伴うクッシング症候群,胚細胞性腫瘍による女性化乳房など〕
□一般的に前縦隔では胸腺由来腫瘍,胚細胞性腫瘍(奇形腫を含む),リンパ系腫瘍,縦隔内甲状腺腫瘍,中縦隔では心膜嚢胞,気管支嚢胞,消化管嚢胞,リンパ性腫瘍,後縦隔では神経性腫瘍が好発し,また小児では成人に比べて悪性腫瘍の割合が高い傾向がある。
□鑑別すべき疾患として肺疾患(肺癌など),胸膜疾患(中皮腫など),リンパ節病変(癌のリンパ節転移,結核,サルコイドーシスなど),大血管関連疾患,食道疾患,横隔膜疾患などが挙げられる。
□主な縦隔腫瘍の特徴的な血液所見は以下の通りである。
・胚細胞性腫瘍の絨毛癌でβヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG),卵黄嚢癌でαフェトプロテイン(AFP)が上昇
・胸腺腫の重症筋無力症合併例では抗アセチルコリン・レセプタ―(AChR)抗体が上昇
・悪性リンパ腫で可溶性IL-2受容体が上昇
□カルチノイドに伴うクッシング症候群では血中ACTHやグルココルチコイドに異常を示す場合があり,MENⅠ型症候群などの合併例では各種ホルモンの測定が必要となる。
□縦隔内甲状腺腫瘍においては甲状腺関連の検査値に異常を示す場合がある。
□神経芽細胞腫や褐色細胞腫では尿中のメタネフリンやバニリルマンデル酸(vanillylmandelic acid:VMA)の検出が有用である。
□胸部X線はスクリーニングとして有用であり,縦隔陰影の拡大により腫瘍の存在を疑うことができる。
□CT(造影)による形態診断や内部構造の診断が重要であり,腫瘍の局在や周囲組織との関連性の把握も可能である。また内部に粗大石灰化などを認める場合は成熟奇形腫の可能性が高い。
□MRは腫瘍の内部性状を把握する上で有用であり,嚢胞と充実性腫瘍の鑑別が容易となる。また腫瘍の大血管への浸潤の有無,特に神経性腫瘍における脊椎との関連性を探索するのに有用である。
□positron emission tomography(PET)は悪性腫瘍や悪性リンパ腫で高集積を認めるため,良性疾患との鑑別に有用な場合がある。
□多くの場合,診断と治療を兼ねて外科的切除を行うが,以下の疾患に関してはCTガイド下針生検や超音波気管支鏡による生検が有用である。
□CTガイド下針生検:悪性胚細胞性腫瘍や悪性リンパ腫が疑われる場合,各組織亜型に基づいた治療戦略が必要なため,比較的大きな組織標本が望ましく,太めの生検針で施行される。臨床所見と画像所見から切除可能な胸腺腫であることが強く疑われる場合,生検は不要である。
□超音波気管支鏡:サルコイドーシスなど,気管支からアプローチ可能なリンパ節腫大の診断に有用である。
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