巻頭言
2年余にわたって肺音の連載を診療の現場において活かすことができるようにと願い,様々な肺音の紹介をしてきました。最初は実用的なウィーズで点滴が要るか要らないかを判断できる例,それからファイン・クラックルの特徴的な例,正常で聴かれる呼吸音である肺胞音,気管支音などを提示しました。スクオークや胸膜摩擦音,ハマンサインなど名前は知っていても実際には聴いたことがないという読者も多いかと思います。サイレントチェストでは呼吸の気流速度と音の発生の関係を解説し,強制呼出でのウィーズを頸部と胸部で聴くなど様々なバリエーションも提示しました。間質性肺炎の増悪では肺音は画像に負けない変化があり,コース・クラックルに聴こえることもあります。肺聴診,肺音が知識だけでなく簡単なツールとして使えるように心がけました。
私の聴診は1974年に赴任した近畿中央病院(今の胸部疾患センター)で北谷文彦先生に臨床の重要性を教わり,さらに派遣された東京女子医科大学の日本心臓血圧研究所で心聴診を指導されたことから始まります。沖縄県立中部病院では宮城征四郎先生,さらにコロラド大学でペティー教授,ルイーズ・ネット師長にご指導を,肺音の解析を始めてからは工藤翔二先生,米丸先生をはじめとする肺音研究会の先生方にも親切なご指導を頂きました。その間,福岡病院の下田先生とは喘息の肺音解析と臨床像に関して多数の論文を発表することができ,後輩では土生川千珠先生が小児喘息の肺音研究で大きな成果を挙げることができました。肺聴診の普及には長澄人先生のご支援も大きかったと思います。
このような活動を続けることができたのも卒業直後から,大阪大学第3内科で上田英之助先生の診療,研究の姿勢を目の当たりにし,長期間のご指導ご鞭撻を頂いたことが根底にあります。ほかにも同僚の土谷美知子先生はじめ多くの先生方にお世話になり,また故人となった妻の助けも得て,この連載を終えることができました。最後になりますが,日本医事新報社の永野拓紀子様,金子和夫様,大谷暢直様にも編集で大変お世話になりました。心よりお礼申し上げます。
洛和会音羽病院/洛和会京都呼吸器センター参与
長坂行雄