ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)は,組織球の一種であるランゲルハンス細胞が増殖し臓器浸潤をきたす稀少疾患であり,単一臓器型と2臓器以上に病変を認める多臓器型に分類される。以前はhistiocytosis-Xと呼称されていたが,1987年以降はLCHと提唱されており,広範な病態を含んでいる。成人では肺に病変を有する単一臓器型が多く,小児では多臓器型が多い1)。
肺病変を主体とする肺ランゲルハンス細胞組織球症(pulmonary LCH:PLCH)はランゲルハンス細胞が肺内で増殖し,小結節の形成や組織の破壊,囊胞形成,線維化などを引き起こすびまん性肺疾患である。PLCHは20~40歳に多く,男性にやや多く,90%以上が有喫煙歴者であり,喫煙関連疾患である。肺病変のみのPLCHと多臓器型PLCH,および肺病変のない多臓器型LCHの予後について後方視的に観察した研究では,5年生存率は各々94%,78%,75%と報告されている2)。PLCHの206例の報告では,10年生存率は93%であり,肺限局型(単一臓器型)では経過中に肺外病変が5.1%に発見,確認されている3)。
症状として咳嗽,(労作時)呼吸困難,喀痰,胸痛などが認められる。そのほかに自然気胸に伴う症状や,多臓器型では尿崩症,骨病変,肝障害,皮膚病変,腎障害などを呈することがある。検診で発見される無症状の単一臓器型の患者もみられる。
胸部単純X線では,両側の上中肺優位に粒状影・網状結節性陰影を認め,時に過膨張を示し,気胸を合併することもある。早期にはX線では異常を認めないこともある。高分解能CT(HRCT)では,上中肺優位に多発する小葉中心性粒状・結節性陰影と囊胞性陰影が特徴である。早期には病理学的に呼吸器細気管支周囲に肉芽腫を生じ,小葉中心性や気管支中心性に分布し,10mm径以下で境界不明瞭な病変を示す。進行すると小結節影が空洞化し,癒合しながら壁の厚みが様々な不整形の囊胞性陰影となっていく。網状陰影として線維化を示すものもある。また,他の喫煙関連間質性肺炎の所見が混在する症例では,すりガラス性陰影を呈する。
病理組織学的には囊胞形成やその周囲および細気管支周囲に肉芽腫を認め,ランゲルハンス細胞の増殖がみられる。ランゲルハンス細胞ではCD1a抗原およびCD207抗原(langerin)が細胞膜と細胞質で,S100蛋白が細胞質で陽性となり,電子顕微鏡では特徴的なBirbeck顆粒が観察される。気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage:BAL)検査では,CD1a陽性細胞を5%以上検出すれば診断に有用であるが,診断率は25~40%と報告されている。
鑑別疾患として,慢性肺気腫症,Birt-Hogg-Dube症候群,リンパ脈管筋腫症,アミロイドーシス,サルコイドーシス,リンパ増殖性疾患,シェーグレン症候群,転移性腫瘍などの他の肺多発囊胞性陰影を呈する疾患が挙げられる。
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