慢性呼吸不全は慢性的に十分なガス交換を行うことができなくなる状態を指し,様々な呼吸器疾患や病態によって引き起こされる。動脈血中のPaO2が60mmHg以下になることを呼吸不全と定義し,二酸化炭素分圧の増加を伴わないⅠ型呼吸不全(PaCO2≦45mmHg)と,Ⅱ型呼吸不全(PaCO2>45mmHg)にわけられる。これらの呼吸不全が1カ月以上続く場合に,慢性呼吸不全と定義される。
Ⅰ型呼吸不全は細菌,ウイルスなどの感染によっても引き起こされるが,それらは一過性であることがほとんどであり,慢性的な経過をたどる代表的な疾患としては,間質性肺疾患や肺高血圧症などの血管病変が有名である。また,慢性Ⅱ型呼吸不全の原因として慢性閉塞性肺疾患(COPD)や神経筋疾患などがある。
慢性経過の呼吸器疾患を診療する中で,呼吸音や呼吸様式の観察のみならず,喫煙歴,職業歴,環境要因の確認も重要である。動脈血液ガス分析により,低酸素血症や高炭酸ガス血症の有無をみることで先述したⅠ型およびⅡ型呼吸不全を鑑別できる。また,胸部X線やCTなどの画像検査による肺の構造的異常の評価や,肺機能検査および6分間歩行検査もさらなる呼吸状態の把握に非常に重要である。
呼吸不全の原因となった疾患の治療,進行の抑制が基本であるが,慢性呼吸不全の原因となる疾患は進行性であることが多い。実際には慢性呼吸不全への対処法として,一定の割合で在宅(長期)酸素療法(home oxygen therapy:HOT,long term oxygen therapy:LTOT)が導入される。有効性に関する報告は疾患により異なるが,呼吸困難の軽減のみならず, 生活の質 (QOL)の向上,生命予後の改善も期待される。
Ⅱ型呼吸不全の場合はCO2ナルコーシスの危険性があるため慎重に導入しなければならず,高二酸化炭素血症の程度によっては非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)療法も検討する。また,呼吸リハビリテーションや栄養管理により,呼吸筋の強化やQOLの向上を図ることも重要である。
残り1,288文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する