院内肺炎(hospital acquired pneumonia:HAP)は,入院後48時間以上経過してから新たに発症した肺炎であり,入院時既に感染していたものは除く。市中肺炎と比較して原因病原体として耐性菌の検出率が高く,死亡率も高い。
喀痰などの気道検体を用いて原因病原体を特定し治療を行うことが望ましいが,開始時に病原体を特定できず,経験的治療が行われることが多い。良好な喀痰などの気道検体が得られずに病原体の推測ができない場合,気道検体のグラム染色で病原体が推測できる場合,特定の病原体が検出される場合によって,治療方針が異なる。
原因病原体が推測できない場合でも,まず敗血症の有無を判定後,I-ROAD(I:悪性腫瘍または免疫状態,R:SpO2 >90%を維持するためにFiO2>35%を要する,O:意識レベルの低下,A:男性70歳以上,女性75歳以上,D:乏尿または脱水)と,肺炎重症度因子(CRP≧20mg/dL,胸部X線画像の陰影の広がりが一側肺の2/3以上)による重症度の判断を行う。また,耐性菌リスク〔活動性の低下,慢性腎臓病(透析を含む),最近の抗菌薬使用歴,ICUでの発症,敗血症・敗血症性ショック,I-ROADで重症等〕を評価して,escalation治療(まず狭域スペクトラムの抗菌薬を投与し,無効の場合に広域スペクトラムの抗菌薬に変更する)とde-escalation治療(広域の薬剤で初期治療を開始し,可能であれば狭域の薬剤への変更を考慮する)のどちらを行うか判断する。
一方,HAPでは反復性の誤嚥性肺炎や疾患末期,老衰の肺炎等の終末期における肺炎である場合も多く,QOLを考慮し,家族や本人の意思を尊重した治療選択も求められる。
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