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FOCUS:〈エッセンス解説〉肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)診療

No.5257 (2025年01月25日発行) P.13

菊地利明 (新潟大学大学院医歯学総合研究科 呼吸器・感染症内科学分野教授)

登録日: 2025-01-24

最終更新日: 2025-01-22

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新潟大学大学院医歯学総合研究科 呼吸器・感染症内科学分野教授

菊地利明

1990年北海道大学医学部卒業。米国コーネル大学呼吸器内科客員研究員,東北大学病院呼吸器内科准教授等を経て,2015年より現職。専門は内科学,呼吸器内科学,感染症学。日本呼吸器学会・理事,日本結核・非結核性抗酸菌症学会・常務理事,日本感染症学会・評議員等。編著書に『非結核性抗酸菌症マネジメント〜咳と痰をどうみるか?』(日本医事新報社,2020)。

宇井雅博,霍間勇人,番場祐基,青木信将

新潟大学大学院医歯学総合研究科 呼吸器・感染症内科学分野

私が伝えたいこと

◉肺NTM症患者数は右肩上がりに増加しており,この疾患を専門としない先生も診療に関わる機会が増えることが予想されます。肺NTM症疑い例や,確定診断後すぐに治療開始しない症例,症状が乏しい症例でも,将来的に悪化することがしばしば認められることから,適切な経過観察が重要です。

◉薬物治療では,マクロライドへの耐性化を抑える治療選択が重要です。また薬物相互作用を把握し,副作用の発生を適切にモニタリングするとともに,副作用が発生した際に迅速に対応することが求められます。

◉難治例に対しても治療のエビデンスが構築されつつありますが,治療が難しい症例は,難治化する前に早めに専門家に相談頂くことが最も重要です。

❶ 診断のポイント:疑う患者像や疫学をふまえた診断,そして自然経過や治療するタイミングを見据えた経過観察の実際

(1) 疫学

本邦の結核の罹患率は2021年に人口10万人当たり9.2と,10.0を下回り,結核低蔓延国の仲間入りを果たしました1。一方で,肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)症は正確な統計はないものの,増加傾向にあると考えられています。2014年のアンケート調査による罹患率では肺NTM症が14.7人,菌陽性肺結核が10.7人と結核患者数を上回りました。2020年の人口動態統計では,結核による死亡者数が1909人であるのに対し,肺NTM症の死亡者数は2017人と,こちらも肺NTM症が上回っています。このような罹患率や死亡者数の増加を受け,呼吸器内科のみならずプライマリ・ケアの領域でも,肺NTM症を診療する必要性が高まっていると考えられます。

(2) 症状,リスク因子

肺NTM症の症状には,咳嗽,喀痰,血痰,呼吸困難などの下気道症状と,発熱,倦怠感,体重減少などの全身症状があります。1に臨床症状の頻度を示します2

無症状の場合も多く,こうしたケースでは,健康診断の胸部X線撮影で陰影が指摘され,受診するパターンが多いです。宿主因子としては,基礎疾患がない場合,中高年,女性,痩せ型で肺NTM症が多いとされます3。気管支拡張症,間質性肺炎,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD),結核後遺症などの構造改変を伴う肺の基礎疾患も肺NTM症のリスクとなります4。関節リウマチは高リスクな併存症であり,副腎皮質ステロイドや生物学的製剤の使用もリスク因子とされています5)6。慢性的な下気道症状がある場合や,無症状でも胸部X線で陰影が確認される場合には,肺NTM症を疑い,胸部CTを含めた画像検査を検討する必要があります。

関連書籍 非結核性抗酸菌症マネジメント〜咳と痰をどうみるか?:菊地利明・渡辺 彰編,B5判,212頁。千差万別な経過をどう解釈して方針を決めるか,模擬症例も交えて実践的に解説。マネジメントの要点がわかる。

(3) 画像所見

肺NTM症の中でも最も頻度が高いのは,肺Mycobacterium avium症および肺M. intracellulare症(いわゆる肺MAC症:M. avium complex)です。画像所見としては,結節・気管支拡張型(中葉・舌区型,nodular bronchi-ectasis type:NB型)と線維空洞型(結核類似型,fibrocavitary type:FC型)に大別されます。基礎疾患のない場合にはNB型が多く,中葉や舌区を中心に気管支拡張所見や小粒状影を呈します。NB型の多くは進行が比較的ゆっくりで安定していますが,空洞影を伴う場合(cavitary NB型)は進行が速く,予後が悪くなります。一方で,FC型は肺基礎疾患を持つ高齢男性に多く,上葉に空洞性病変を呈し,結核の画像所見に類似しています。FC型は治療抵抗性が強く,進行も速いです。

播種性NTM症
稀に全身感染症として,播種性NTM症を引き起こします。肝臓,脾臓,骨,リンパ節に病変を形成する病型で,後天性免疫不全症候群や造血器疾患,抗INF-γ中和抗体陽性などの免疫不全症にみられます。

1に,NB型(1a),FC型(1b),cavitary NB型(1c)の画像をそれぞれ示しています。画像所見のほかのパターンとしては,結節影を呈する孤立結節型,MAC吸入による過敏性肺炎で淡い小葉中心性粒状影を呈する型もあります。

MACについで頻度の高い肺M. kansasii症は,上葉/肺尖部に空洞影を呈し,肺結核に類似する画像パターンを取ります。肺M. abscessus症は近年増加しており,多くは肺MAC症と同様の画像所見を呈します。COPDや間質性肺炎などの肺の基礎疾患に合併した肺NTM症では,背景肺の構造変化のために肺NTM症に特徴的な画像所見を認めないことも多いです。画像所見のみで肺結核との鑑別は困難なため,細菌学的検査や血清学的検査も併用して診断します。

M. chimaera
MACの中には,M. avium,M. intracellulare以外にも,種がたくさん含まれています。M. chimaeraは,その中でも最近臨床的に問題となっています。

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