□原発性胸膜腫瘍には,主に臓側胸膜に発生する孤在性胸膜線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)と壁側胸膜に初発する悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma:MPM)がある。
□SFTは,中皮細胞由来と考えられ,良性限局型胸膜中皮腫などと呼ばれてきたが,中皮下層の間葉系細胞由来であることが明らかになり,疾患名が変更されている。やや女性に多く,多くは良性で,胸腔内にポリープ状に発育する。
□MPMはきわめて予後不良の悪性腫瘍である。すべての胸膜を腫瘍化するように発育するため,びまん性悪性胸膜中皮腫とも呼ばれる。
□中皮腫は稀な腫瘍であったが,世界的に増加する傾向があり,日本ではICD-10が導入された1995年の500人から,2014年には1376人に増えている。
□MPMとアスベスト曝露は密接に関係するが,SFTとアスベストの関係はない。
□MPMは壁側胸膜の顆粒状腫瘍で初発する。最も早期には腫瘍は壁側胸膜に限局し,臓側胸膜には腫瘍が認められない(IMIG分類T1a)。次に,臓側胸膜に播種巣が形成される(T1b)。
□その後,葉間胸膜を含むすべての胸膜面を埋め尽くすように発育・進展し,特有の画像を呈するようになる(T2)(図1)。腫瘍は肺実質(T2)や内胸筋膜(T3)・縦隔脂肪組織(T3)にも浸潤し,また横隔膜筋層に浸潤(T2)して腹腔に達する(T4)。
□過半数は無症状の健診発見である。大きく発育すると咳,胸痛,呼吸困難を呈する。
□腫瘍随伴症状には,低血糖(Doege-Potter syndrome)と肥大性肺性骨関節症(Pierre-Marie-Bamberg syndrome)がある。低血糖は腫瘍からの高分子IGF-2(insulin-like growth factor-2)の過剰分泌が原因である。
□境界明瞭の孤在性腫瘍の画像所見を呈し,30%に石灰化がある。胸腔を占拠するほどの大きさに発育することがある。稀に体位や呼吸によって有茎性腫瘍の位置が変わる。
□胸腔鏡では被覆された有茎性腫瘍が認められ,茎に拡張した血管が確認できる。紡錘形細胞と豊富なコラーゲンが病理所見の特徴で,中皮細胞マーカーのサイトケラチンは陰性で,間葉系細胞マーカーのビメンチンが陽性である。
□病初期は無症状で,胸水の増加に伴い胸部圧迫感・労作時呼吸困難(dyspnea on exertion:DOE)が出現する。胸痛はT1期にはなく,胸壁浸潤が始まるT2以降に自覚する。進行すると高度になる。
□肺癌に比し遠隔転移は少なく,局所浸潤の症状が主である。
□胸水細胞診は診断の第一歩であるが,反応性増殖する中皮細胞は偽陽性所見を呈することが多く,細胞診のみで診断をするべきではなく,組織診断を併せて行う。
□適切な組織採取やT因子の診断(T1~T2)には胸腔鏡検査が必要である(図2)。
□血清診断マーカーには可溶性メソテリン関連ペプチド(soluble mesothelin related peptides:SMRP,基準値1.5nM/L以下)がある。SMRPはメソテリン可溶化分子のC末端断片であり,感度・特異度が高い(感度64%,特異度89%)。また,N末端のmegakaryocyte potentiating factorも診断マーカーとなり,両者は相関する。
□CEAは代表的な中皮腫陰性マーカーであり,肺腺癌の80~100%が染色されるが,中皮腫は染色を受けない。これは血清および胸水に反映され,中皮腫ではCEA値の増加はない。
□多くの中皮腫細胞はIL-6を産生するので,血清IL-6レベルは高くなり,血小板増多やCRPなどの急性期炎症蛋白の増加がみられる。
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