□一般人における心房粗動の有病率は低く,心房細動の10%以下と考えられている。
□心房細動と同様に,60歳以上に多い。心房細動は左心系の心疾患に伴う場合が多いが,心房粗動は右心系の心疾患(肺疾患や心臓手術後)に起こりやすい。また,心膜炎の30%に合併すると報告されている。
□器質的心疾患や開心術の既往を有する例を認めることもあるが,約半数が器質的心疾患を認めない患者に発生している。
□心房粗動と心房細動は交互に移行することがあるが,自律神経の関与と薬剤の影響によると考えられている。迷走神経緊張により心房不応期が短縮し,心房レートが早くなると心房細動へ移行する。
□一方,心房細動に対してⅠ群抗不整脈薬(特にⅠc群薬)を投与した後に心房不応期が延長し,心房細動が心房粗動へ移行する(Ⅰc flutterと呼ばれる)ことはよく認められる。また,心房粗動と洞不全症候群が合併することもある。
□心房粗動の自覚症状は,房室伝導比により左右され,無症状で経過するものもあるが,労作時1:1房室伝導から失神に陥ることもある(図1)。
□心房粗動の定義は,約300/分(240~440/分)の心房興奮頻度の規則正しい粗動波を特徴とする上室性頻拍とされ,いくつかの分類が提唱されている。
□心電図上は一般に①通常型(common type):Ⅱ,Ⅲ,aVf,V6誘導に粗動波(F波)と呼ばれる陰性の鋸歯状波の心房興奮(250~320/分)を認めるもの,②非通常型(uncommon type):通常型と同じレートであるが,V6で陽性F波を呈するもの,③不純粗動(impure flutter):320/分以上のレートで,通常型心房粗動と心房細動とを移行するもの,に分類される。通常型心房粗動は,三尖弁輪を反時計方向に回旋するマクロリエントリであることが多いが,必ずしも三尖弁輪上を回旋しているとは限らない。また,非通常型は三尖弁輪上を時計方向に回旋している場合もあるが,ほかに右房自由壁や,左房内の場合もあり,この分類は必ずしも機序に準じているとは言えない。そこで,電気生理学的機序に基づいた分類が用いられている。心房レートが240~340/分と比較的遅く,心房ペーシングにより停止,捕捉(エントレイン)されるⅠ型と,より速い心房興奮頻度(350~450/分)で心房ペーシングの影響を受けにくいⅡ型に分類される。
□Ⅰ型の多くは,三尖弁輪部を旋回するマクロリエントリー性頻拍(macro reentrant atrial tachycardia:MAT)であり,下壁誘導において典型的な鋸歯状波形を示し,「通常型」と呼称される。通常型心房粗動は,下壁誘導における粗動波形が陰性の反時計方向旋回型と,粗動波が陽性の時計方向旋回型にわけられる。
□Ⅰ型以外のものを非通常型と総称する。あるいは,リエントリ回路に基づいた分類もある。すなわち,①typical flutter(通常型と同義):リエントリ回路が下大静脈と三尖弁輪間の解剖学的峡部(cavotricuspid isthmus)を含む三尖弁輪上を回旋するもの(時計方向回旋をreverse typical flutterと呼ぶ),②atypical flutter:リエントリ回路が三尖弁輪以外を回旋するもの(下部ループMATや左房粗動も含む),③MAT:心臓手術後の心房切開線の周りを回旋するもの,に分類される1)。この分類はカテーテルアブレーションを行う上で有用である。
□通常型心房粗動のほとんどは,峡部を含む三尖弁輪を周回する右房内リエントリを機序とする。
□リエントリ回路が三尖弁輪状を回旋するtypical flutterでは,三尖弁輪─下大静脈間の峡部を線状に焼灼し,両方向性伝導ブロックを作成することにより根治される。
□atypical flutterなどの峡部非依存性心房粗動では,従来の電気生理学的手法では機序の同定が容易でない場合が多い。しかし,三次元マッピングシステムを用いて粗動中の興奮伝播様式を解析することにより,リエントリ回路または起源となるフォーカスの同定が可能である2)3)。開心術既往例では右房壁の切開創を周回するMATの可能性が高い4)。右房内リエントリのみでなく,左房内リエントリや異常自動能に起因することも多々あり,両心房の詳細なマッピングが必要である。リエントリ回路またはフォーカスが同定されれば,カテーテルアブレーションの至適通電部位を個々の例で同定できる。
1190疾患を網羅した最新版
1252専門家による 私の治療 2021-22年度版 好評発売中
PDF版(本体7,000円+税)の詳細・ご購入は
➡コチラより