3月28日、日本循環器学会から「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」が公表された。2017年版からの大改訂である(2021年の「フォーカスアップデート」を挟む)。「水分管理」もその1つ。明確な推奨が示されなかった2017年版とは対照的に、「代償期の心不全における1日水分摂取量1~1.5Lを目標とした水分制限を弱く推奨する」と明記された。ただし「エビデンス不足」はガイドライン自体が認めるところで、ランダム化比較試験(RCT)"FRESH-UP"の結果が待たれると記されている。
そのFRESH-UP試験が、3月29日から米国シカゴで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会で報告された。安定した慢性心不全(HF)例への水分制限は「不要」である可能性が高いようだ。ラダバウト大学(オランダ)のRoland RJ van Kimmenade氏が報告した。
FRESH-UP試験の対象はオランダ在住で、診断から6カ月超経過しているNYHA分類「Ⅱ/Ⅲ」度の慢性HF 504例である。状態の安定していない例は除外されている。加えて「低Na血症」と「eGFR<30」例も除外された。
これら504例は水分摂取「制限」群と「非制限」群にランダム化され、非盲検下で6カ月間、観察された。「制限」群では、1日水分摂取量を1500mLまでとするよう指導を受けた。ただし両群とも試験開始前すでに、「制限」群の44.4%、「非制限」群の48.2%が「水分摂取制限」指導を受けていた。
・患者背景
平均年齢は69歳、67%が男性だった。NYHA分類は「Ⅱ」度が87%、左室駆出率平均値は40%だった。NT-proBNP値は、「制限」群が507.4、「非制限」群は430.0ng/Lだった(Δ77.4。検定なし)。
HF治療に関し、心保護薬は両群とも十分に使われていた。またループ利尿薬使用率も51%。平均用量はフロセミド換算で40mg/日だった。SGLT2阻害薬も「制限」群の64.8%、「非制限」群は56.7%が服用していた。
・飲水量
試験開始6週間後の1日水分摂取量(1週間分を自己申告)は、「制限」群が1480mL/日で、「非制限」群(1764mL/日)より有意に抑えられていた(P<0.001)。
この点につきベイラー大学(米国)のShelley Hall氏は記者会見において、「非制限」群が(臨床試験と分かっているため)水分摂取を「自重」した可能性(48.2%は試験前に水分制限下)もあると指摘している。
・1次評価項目
その結果、1次評価項目である、試験開始から3カ月間のKCCQ-OSS(HF例QOL指標[「高値」で「良好」])の推移は以下の通りだった。すなわち「非制限」群では「73.4→74.0」と改善傾向だったのに対し、「制限」群では逆に「74.0→72.2」の増悪傾向を認めた(ただし変化量の差はP=0.06)。
なお記者会見においてvan Kimmenade氏は、両群のKCCQ-OSSが想定よりも10近く高く、その結果、改善を見込むのが困難だった可能性もあると述べた。またQOL評価を含まないKCCQ-CSSで評価すると「P=0.03」だったという(文脈上「制限」群で改善)。「しかし我々はQOLまで含めて評価したかった」(van Kimmenade氏)。
この結果はHF「rEF」「mrEF」「pEF」を問わず一貫していた。「糖尿病合併の有無」「血中Na濃度の高低」「退院時ループ利尿薬の有無」にも有意な影響は受けていなかった。
・2次評価項目
2次評価項目である「口渇苦痛尺度(TDS-HF)」は、「制限」群で有意に高値となっていた(18.6 vs. 16.9)。
・安全性
安全性は6カ月というスパンで評価した。しかし「死亡」(「制限」群:0.8% vs. 「非制限」群:0.4%)、「HF入院」(同:1.6 vs. 1.6%)、全入院(6.0 vs. 7.9%)、「ループ利尿薬静注」(2.8 vs. 2.0%)のいずれも、両群間に有意差はなかった。
本研究はオランダ心臓基金とマーストリヒト大学病院、オランダ心臓研究所から資金と援助を受けた。また報告と同時に、Nat Med誌ウェブサイトで公開された。