株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

■NEWS 【米国心臓病学会(ACC)】INOCAの転帰改善に挑んだ大規模RCT"WARRIOR"―突出して多かったイベントは?

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2025-04-08

最終更新日: 2025-04-08

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

虚血症状を訴える女性の5割弱は、冠動脈に狭窄病変を認めない―[Gulati M, et al:Arch Intern Med. 2009]。このような「虚血性非閉塞性冠疾患」(INOCA)が注目を集めている。「予後良好」と考えられていた時期もあったが、転帰は決して良好ではない。たとえば狭窄率149%ながら虚血症状を呈する女性の5年間心血管系(CV)イベント発生率は16.0%である。別コホートだが無症状女性の2.4%に比べ、著明に高い[Pasupathy S, et al:Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2021]。

そのため、転帰改善を目指した介入が必要となるが、エビデンスは希薄だ。そこでその空白地帯を埋めるべく、INOCA例の転帰改善治療を検討する大規模ランダム化比較試験(RCT"WARRIOR"が実施され、その結果が329日から米国シカゴで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会で報告された。現行治療下では死亡・CV死亡の発生率は必ずしも高くなく、逆に狭心痛の管理が大きな課題として残っている可能性が明らかになった。フロリダ大学(米国)のEileen Handberg氏が報告した。

【対象】

WARRIOR試験の対象は、虚血性心疾患を疑う症状・症候がありながら「冠動脈に50%以上の狭窄を認めない」、あるいは「FFR0.80」だった(INOCA)女性2476例である。全例、米国で登録された。心不全(HF)や弁膜症合併例は除外されている。

なお当初の試験設計では、4422例を登録予定だった(コロナ禍などにより早期登録中止)。

【方法】

これら2476例は全例生活指導の上、「強化治療」群と「通常治療」群にランダム化され、非盲検下で観察された(イベント判定者にはランダム化群が盲検化されている「PROBE」法)。

「強化治療」群の内訳は、「高用量ストロングスタチン(アトルバスタチンかロスバスタチン)」「忍容最大用量のACE阻害薬(リシノプリル)またはARB(ロサルタン)」「アスピリン」の3剤併用である。

当初仮説はこれらにより、CVイベントが5年間で相対的に20%減少する、というものだった。

【結果】

・患者背景

平均年齢は64歳、9割弱が白人だった。BMI平均値は32kgm2で、21%が糖尿病を合併していた。82%が閉経後で、35%に喫煙歴があった。

さて「強化治療」の内訳は先述の通りだが、試験開始時すでに両群とも70%が、何らかのスタチンを服用していた。ACE阻害薬/ARBも同様で、両群とも約半数が服用、アスピリンも服用率は約6割だった。Handberg氏は、これにより強化治療の効果がマスクされた可能性を指摘している。

なお、試験開始時収縮期血圧平均値は約125mmHgとかなりコントロールされており、LDLコレステロール濃度もおよそ93mgdLで決して高値ではなかった。

・1次評価項目

その結果、5年間の「死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中・HF/狭心痛による入院」(いずれか初発)発生リスクは、当初の見込みに反し「強化治療」群でハザード比は増加傾向を認めた(1.1395%CI0.94-1.37)。これら1次評価項目の内訳はどうか。両群とも最多は「狭心痛による入院」だった。いずれも「84%」という高値である。ちなみに試験開始時のCa拮抗薬服用率は27%β遮断薬は38%だった。

一方、CV死亡は1%、非致死性MI4%、脳卒中/TIA5%HF入院は2%のみだった(いずれも群間差なし)。

なお本試験の問題点として、先述した「症例数不足」と「スタチン・ACE阻害薬/ARBの対照群多用」に加え、ランダム化治療への低いアドヒアランスも指摘された。特に「強化治療」群では試験開始直後でさえ、アドヒアランスは5割程度でしかなかった(経時的にさらに低下)。

Handberg氏は現在、画像や生化学データを用いた解析を進めていると述べた上で、次のように結んだ。

「本試験の結果は"neutral"であり"negative"ではない。したがってスタチンやACE阻害薬/ARB服用中のINOCA例はそれらを中止すべきではない」。

本試験は米国国防省から資金提供を受けた。論文は投稿準備中だという。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top