□食道アカラシア(esophageal achalasia)は,嚥下障害と胸痛を主訴とする食道運動機能障害である。
□発症率は10万人に1~6人と言われ,神経変性による良性疾患と考えられている。
□病態は,食道体部の運動機能不全と下部食道括約筋の嚥下時の弛緩不全にある。
□第一の症状は嚥下障害である。嚥下障害は,広義には"食事を飲み込んだ時に胃に落ちずに口に戻ってきてしまう(嘔吐ではなく逆流)こと"と考えられており,咽頭での嚥下不全(球麻痺,Zenker憩室,反回神経麻痺など)から下部食道での閉塞までを含む。アカラシアの嚥下障害は,食道体部の運動機能不全と嚥下時の下部食道括約筋の弛緩不全によるものである。
□第二の症状は胸痛である。「下部食道から始まる締め付けられるような痛みは,背中から頸部の耳の後ろに放散する」というような表現をされることが多い。
□胸痛は食道アカラシアの比較的初期に起こることが多く,食道の拡張が進むにつれて胸痛の軽減がみられることが多い。
□胸痛が強い場合は,しばしば食道体部に非蠕動性あるいは同期性の収縮といった異常収縮を伴うことが多い。
□良性機能性疾患であり,詳細な問診が最も重要となる。
□非定型例でひとつだけ検査を選ぶとしたらバリウム透視であろう。嚥下時の食道運動を経時的に観察できる。かつてtimed barium swallowと呼ばれていた,嚥下のビデオクリップには最も情報量が多い。典型例はバリウム透視の静止画1枚での診断が可能であるが,特殊例ではビデオクリップによる診断が望ましい。
□確定診断には,HRM〔高解像度食道内圧機能検査(high-resolution manometry)〕が必要である。嚥下時の下部食道括約筋の弛緩不全や,食道体部の運動機能障害の特徴や程度を判定するのに有用である。特に,アカラシア,非アカラシア(びまん性食道攣縮,nutcracker食道など)の鑑別診断には,嚥下時の下部食道括約筋の弛緩の有無が必須である。
□悪性疾患の否定のためには,内視鏡検査を行うことも重要である。いったんアカラシアと診断された症例で,内視鏡検査後に進行噴門癌であることが判明した例もある。まずは上部消化管の悪性疾患(噴門部の全周性のGISTなども含む)との鑑別が必要である。内視鏡によって得られるもうひとつの重要な所見として,食道体部の異常収縮の評価がある。古典的なアカラシアとvigorous achalasiaの鑑別が可能である。
□アカラシアの評価は,国際的にはバリウムでの形態分類としてsigmoid,non-sigmoid(長軸方向の形態分類)が一般的である。体部の拡張度からは,最大部の拡張が椎体の横幅より広いか狭いかでD1,D2にわける。また,古典的アカラシアとvigours achalasiaのわけ方(輪状収縮の観点からのわけ方)も有用である。これらは内視鏡所見の際にもあてはめられる。HRMの分類はシカゴ分類に従う。
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