□腎硬化症には,病理学的には良性腎硬化症と悪性腎硬化症がある。
□通常の臨床における腎硬化症は,軽度~中等度の長期にわたる本態性高血圧の結果として生ずる腎病変のことをいい,病理学的には良性腎硬化症の状態となる。近年,平均寿命の延長とともに増えつつある病態であり,透析導入の原因の第3位であるとともにその割合も増加している。高血圧の適切な管理により,本症の発症を予防することが肝要である。
□一方,悪性高血圧あるいは加速型高血圧のような著明な高血圧に伴う臓器障害では,病理学的な悪性腎硬化症を認める。これは通常の腎硬化症とは異なり,主病変として急性変化が血管に生じ,適切な降圧治療が行われないと末期腎不全や心不全を生ずる病態である。
□本項では腎硬化症として,良性腎硬化症に伴う病態の治療について記載する。
□自覚症状はほとんどない。高血圧を認め,慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)としてフォローされる場合も多い。腎機能が低下してくると,慢性腎臓病の様々な症状が生じる。白人よりも黒人に多く,人種による差があると考えられている。
□本症は糖尿病を合併していると進行しやすいともいわれる。
□特に高齢者における病態として,潜在性の腎硬化症を見逃さないことが重要である。
□尿検査:尿所見は乏しい。尿沈渣も通常は正常である。蛋白尿はあっても,ほとんどの症例では1g/日以下である。蛋白尿の程度が軽いので腎生検の適応になることは少ないが,確定診断には腎生検が必要となる。
□血液検査:腎硬化症の早期であれば,血液生化学的な異常所見を示さない。腎機能障害は徐々に進行するため,残存腎機能に応じたCKDの所見を認める。eGFRが60mL/分/1.73m2未満になると,BUN値の上昇,高カリウム血症,低カルシウム血症,高リン血症,高尿酸血症,貧血,アシドーシスなど様々な所見を認めることがある。
□形態学的検査:腎硬化症の診断に,腎の形態は重要な情報を提供する。腹部超音波検査や腹部CTにより,腎萎縮の有無,腎皮質の菲薄化や腎臓表面の細顆粒状の変化(凹凸)などを検索する。腎萎縮がなければ腎生検が可能であり,尿細管間質性腎炎との鑑別のために,腎生検を行う場合もある。
□合併症の検索:腎硬化症を生じるのは,細動脈の硬化性病変が生じているためである。そこで,全身の動脈硬化に関する検索が必要である。また,長期にわたる高血圧による変化であるので,高血圧に伴う臓器障害を見逃してはならない。
□主な検査項目は,眼底検査による網膜動脈の硬化性変化,心臓超音波検査での左室肥大,左室拡張機能障害,頭部CT,脳MRIを用いた無症候性脳梗塞などの脳血管疾患,頸動脈超音波検査による内膜肥厚やプラーク形成,脈波伝播速度(pulse wave velocity:PWV)や下肢動脈エコーを用いた閉塞性動脈硬化症など。逆に,これらが存在していれば腎硬化症の存在を疑わなければならない。
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