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アルポート(Alport)症候群[私の治療]

No.5261 (2025年02月22日発行) P.45

中西浩一 (琉球大学大学院医学研究科育成医学(小児科)講座教授)

登録日: 2025-02-22

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  • アルポート(Alport)症候群は,Ⅳ型コラーゲン遺伝子バリアントによる遺伝性腎炎である1)~3)
    欧米の報告では,有病率は5000~1万人に1人で,人種差や地域差はないと考えられている。また,発生率は約5万出生に1人との報告がある3)。約8割がX連鎖型であるが,常染色体潜性・顕性のものもある。

    ▶診断のポイント

    血尿患者を診たときに,詳細に家族歴を聴取し,家族性の尿異常を見落とさないことが重要である。家族に尿異常者がある場合は腎不全の有無を詳細に確認し,腎不全の家族歴がある場合は遺伝子解析を施行する。

    アルポート症候群がⅣ型コラーゲン異常によるものであることが判明し,特徴的な糸球体基底膜の電子顕微鏡所見やⅣ型コラーゲン異常が証明されれば,家族歴や難聴は診断に必須ではない。したがって,家族歴のない例ではアルポート症候群を念頭に置かないと正しく診断できないことがあり注意を要する。すなわち,家族歴のない血尿症例においても突然変異例が含まれるので,原則的に血尿がみられる疾患はすべて鑑別疾患となる。非家族性血尿の症例においても腎生検をする場合には,電子顕微鏡による糸球体基底膜の観察が重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    現時点では疾患特異的治療はなく,対症療法が中心である。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の投与により,腎機能障害進行阻止が可能となり,末期腎不全への進行年齢を遅らせることができたと報告されている3)。ただし,一般的にACEIやARB使用中は脱水から腎機能低下を容易に引き起こすので,水分が十分摂取できないときは中止するなどの指示が重要である。

    腎移植においては,遺伝性疾患であるため生体腎移植時の腎提供者(ドナー)の問題や,また腎移植後の再発性腎炎(新規抗糸球体基底膜抗体腎炎)の問題が存在する。

    アルポート症候群の重症度は,腎機能,難聴の程度,視力により規定される。本症候群は進行性の慢性腎症であるが小児期には通常腎機能は正常で,思春期以後徐々に腎機能が低下しはじめ,男性患者では10歳代後半~30歳代で末期腎不全に至るものが多い。腎保護薬なしでの末期腎不全進行への自然歴は,X連鎖型男性患者で25歳までに50%,42歳までに90%とされる。

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