□硬膜穿刺後頭痛(post-dural puncture headache:PDPH)は,脊髄くも膜下麻酔時の硬膜穿刺後,硬膜外麻酔時の偶発的硬膜穿刺後,診断のための髄液採取や脊髄造影時の硬膜穿刺後などに発生する頭痛である。
□硬膜穿刺後頭痛の機序として2つの説があり,1つは脳脊髄液の緩徐な漏出によって脳脊髄圧の低下が生じ頭蓋内組織の下垂をきたし牽引性頭痛を引き起こすとする説,もう1つは脳脊髄液の減少により相対的に脳内の血液量が増え硬膜静脈洞や架橋静脈などの血管拡張をきたし痛覚受容体が刺激されるとする説である。
□頭痛の性状は後頭部を中心とした激しく鈍い痛みであり,首,額,目の奥に放散する。拍動性を認めるときもある。また,坐位もしくは立位をとると15分以内に増悪し,臥位をとると15分以内に軽快する。
□他に項部硬直,悪心,嘔吐,肩こりを伴う。
□眼症状としては光過敏,羞明,複視,かすみ目など,前庭・蝸牛症状としては聴覚過敏,耳鳴,めまい,運動失調,難聴などが随伴する。
□重症度は日常生活動作の制限や症状により分類する(表)1)。
□軽症,中等症は保存的治療,重症は硬膜外自己血パッチを勧める。
□脳MRIのガドリニウム造影では硬膜のびまん性増強を認める2)。
□国際頭痛学会(International Headache Society)の「国際頭痛分類第3版beta版」(ICHD-3β)3)の診断基準によると,硬膜穿刺後頭痛とは,腰椎穿刺後の5日以内に発現し,硬膜穿刺による髄液漏出に起因する頭痛であり,通常は項部硬直や自覚的な聴覚症状(耳鳴・聴覚低下など)を伴う。2週以内に自然軽快するか硬膜外自己血パッチ(epidural blood patch:EBP)による漏出の閉鎖により軽快する。腰椎穿刺後頭痛(post-lumbar puncture headache)とも呼ばれる。
□硬膜穿刺後頭痛の独立した危険因子として,女性,31~50歳,硬膜穿刺後頭痛の既往,そして硬膜穿刺時の穿刺針の脊柱長軸に対する垂直方向の角度がある3)。
□腰椎穿刺を受けた患者の20~60%に頭痛が発生する4)5)。硬膜外麻酔施行時の偶発的硬膜穿刺は0.5~1%程度である6)7)。
□硬膜穿刺後頭痛は鑑別すべき重要な疾患が多く,髄膜炎(ウイルス性,細菌性,薬物性),頭蓋内出血,脳梗塞,脳静脈血栓症,下垂体卒中,頭蓋内腫瘍,副鼻腔炎に伴う頭痛,片頭痛,薬物,子癇前症,非特異的頭痛などがある。
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