□先天的な遺伝子異常が原因で,慢性的な赤血球の血管外溶血(主に脾臓などでの赤血球破壊)や血管内溶血が起こる溶血性貧血の総称である。
□赤血球膜異常症,赤血球酵素異常症,ヘモグロビン異常症に大別される。
□日本の溶血性貧血患者の約17%を占め,その73%は赤血球膜異常〔遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis:HS)70%,遺伝性楕円赤血球症(hereditary elliptocytosis:HE)2%〕,ヘモグロビン異常症5%,赤血球酵素異常症5%である。
□溶血性貧血の共通症状として,通常,貧血と黄疸を認め,しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。
□溶血性貧血の共通検査所見として,へモグロビン濃度低下,網赤血球増加,血清間接ビリルビン値上昇,尿中・便中ウロビリン体増加,血清ハプトグロビン値低下,骨髄赤芽球増加を認める。
□約5~10万人に1人の有病率で,約2/3の症例は常染色体優性遺伝である。
□アンキリン,βスペクトリン,バンド3,4.2蛋白など,細胞骨格蛋白の分子異常により膜の異常をきたす。
□溶血の場は主に脾臓など血管外である。
□末梢血で小型球状赤血球症を呈し,赤血球浸透圧抵抗試験が減弱し,家族歴が証明されれば確定診断となる。
□赤血球eosin 5'-maleimide(EMA)結合能測定や酸グリセロール溶血試験(acidified glycerol lysis test:AGLT)も診断に有用である。
□わが国の症例は欧米に比較して軽症例が多い。
□ヘモグロビン遺伝子または遺伝子発現量の制御領域の変異により,ヘモグロビン分子を構成するグロビン鎖α鎖・β鎖間に合成量の不均衡が生じて発症する。
□常染色体劣性遺伝(小球性赤血球症としては優性遺伝)で,ホモ接合は重症で,ヘテロ接合では軽症もしくは無症状の場合もある。
□わが国でのサラセミア保因者の頻度は3000~5000人に1人と言われている。
□β鎖合成障害であるβサラセミアは700~1000人に1人で,臨床症状はほとんどないが,軽症型のβサラセミアであっても,妊娠や感染症で一過性の貧血増悪をきたすことがある。
□α鎖合成障害であるαサラセミアは約5000人に1人であるが,15%がヘモグロビンH(hemoglobin H:HbH)症として治療を要することがある。
□髄内溶血や無効造血,肝脾腫を認め,小球性低色素性貧血を呈し,奇形赤血球や標的赤血球を認める。
□著明な小球性貧血を認めるが血清鉄は正常もしくは高値を示す。
□ヘモグロビン分析でHbFおよびHbA2の増加を確認し,遺伝子検査で病因を確定する。
□ヘモグロビンのグロビン鎖のアミノ酸変異が原因となる。
□ほとんどが常染色体優性遺伝である。ヘモグロビン異常症の6割は無症候性,3割は症候性(約半数が不安定ヘモグロビン症)で全体の2割が溶血を示す。
□サルファ薬などの酸化剤の投与や感染症で溶血発作を起こし,奇形赤血球や破砕赤血球を呈する。
□ヘモグロビン不安定性試験やヘモグロビン等電点電気泳動で確定診断される。
□17種の酵素が赤血球酵素異常症の原因となる。
□赤血球形態はほぼ正常で,赤血球浸透圧抵抗試験とCoombs試験は正常である。
□病因確定には赤血球酵素活性測定,赤血球内還元型グルタチオン定量に加え,イソプロパノール試験による不安定ヘモグロビンの検出も行う。
□グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose-6-phosphate dehydrogenase deficiency:G6PD)異常症が最多で,平常時は明らかな貧血症状はないが,感染やソラマメの摂取,解熱薬,マラリア治療薬などで急性溶血発作を起こす。
□ついで多いピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase:PK)異常症では有棘赤血球を認める。
□G6PD異常症はX連鎖性劣性遺伝でヘミ接合の男性で問題となるが,その他ほとんどは常染色体劣性遺伝である。
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