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播種性血管内凝固(DIC)[私の治療]

No.5238 (2024年09月14日発行) P.46

山本晃士 (埼玉医科大学総合医療センター輸血部教授)

登録日: 2024-09-12

最終更新日: 2024-09-10

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  • 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は,何らかの基礎疾患を背景として発症する病態であり,基本的には「持続的な凝固活性化による微小血栓形成」→「同時進行的に起こる線溶(血栓溶解)系の活性化」→「凝固線溶因子の消費~欠乏による出血または血栓症状」を本態とする。その治療は,基礎疾患そのものに対する治療が不可欠であるが,欠乏した凝固線溶因子・血小板を補充すると同時に,抗凝固療法および抗線溶療法を行う。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    DICを発症する基礎疾患によって異なるが,大きくわけて次の2つである。

    ①凝固因子の消費~欠乏と線溶活性化による出血症状。具体的には,四肢・体幹部の紫斑,血尿,口腔内出血,消化管出血,脳出血など。

    ②微小血栓の多発による循環障害によって起こる血栓症状・臓器症状。具体的には,手足指趾末端の循環不全~壊死,肝機能障害,腎機能障害など。

    【検査所見(表)】

    〈一般的所見〉

    ①血小板数の低下,②PT,APTTの延長,③フィブリノゲンの低下(敗血症例では上昇),④fibrin degradation product(FDP)およびD-dimerの上昇,⑤敗血症例ではアンチトロンビンの低下とplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)の増加。

    〈その他の分子マーカー〉

    ①thrombin-antithrombin complex(TAT)の上昇,②可溶性フィブリンモノマー複合体(soluble fibrin monomer complex:SFMC)もしくはフィブリンモノマー(fibrin monomer:FM)の増加,③plasmin-α2 plasmin inhibitor complex(PIC)の増加。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    基礎疾患に対する治療とともに,欠乏した凝固線溶因子や血小板の補充療法を行う。また,凝固活性化を抑えるための抗凝固療法,および線溶活性化を抑える抗線溶療法も行う。ただし,抗凝固療法・抗線溶療法のどちらを優先して行うかは,基礎疾患によって判断すべきである。

    【凝固優位型】

    重症感染症や敗血症に伴うDICでは,高度な凝固活性化と線溶抑制状態(主にPAI-1の増加による)が招来されて血栓症状が前面に出る。すなわち,微小血栓による循環障害~臓器不全(肝,腎主体)である。そのため,ヘパリン系薬剤およびアンチトロンビン製剤による強力な抗凝固療法を主体とした治療を行う。それだけでは効果が現れない,あるいは重症例にはトロンボモジュリン製剤を併用する。

    【線溶優位型】

    白血病に伴うDICや産科DICでは,高度な線溶活性化とフィブリノゲン欠乏が起こって出血症状が前面に出るため,抗凝固療法としては出血性副作用の少ないトロンボモジュリン製剤を用いるとともに,新鮮凍結血漿やクリオプレシピテート(新鮮凍結血漿を低温融解し,析出した沈殿物より調製した血液製剤),フィブリノゲン製剤などによってフィブリノゲンを補充する。なお産科DICでは,(場合により)線溶阻害薬(トラネキサム酸)を投与する。

    基本的にDICでは凝固活性化と線溶活性化が同時進行的に起こるのだが,どちらに対する治療をより優先して行うかを基礎疾患ごとに判断しないと,症状をより悪化させることになりかねない。たとえば,出血症状がひどいDIC患者にヘパリン系薬剤を用いると,出血を助長して症状が悪化する可能性が高い。逆に,血栓症状がひどいDIC患者に抗線溶療法を行うと,血栓形成が亢進して臓器不全が悪化する可能性が高い。この場合,抗凝固療法を十分行った上で,血小板や凝固因子も補充すべきである。

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