□無症候性骨髄腫である単クローン性ガンマグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS)と無症候性骨髄腫(smoldering multiple myeloma:SMM)については治療対象とせず,3~6カ月ごとに診察しながら経過観察し,病勢の進行を認めた時点で治療を開始。症候性骨髄腫に関しては治療対象となる。初回治療としては,原則65歳以下と66歳以上にわけて治療を行う。65歳以下で臓器障害などがなければ,自家末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法の適応である。
□この10年で,機能性腫瘍である多発性骨髄腫の治療は大きく変化した。1999年サリドマイドの有効性の報告に始まり,サリドマイドの誘導体であるレナリドミド,プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブの登場により治療選択は広まり,生存期間の延長につながった。さらに,新たなプロテアソーム阻害薬(カルフィルゾミブ,ixazomib)や免疫調節薬(immunomodulatory drugs:IMiDs),抗体薬(エロツズマブ,daratumumab,ニボルマブ)などの新規薬剤の試験が進行しており,目覚ましく進化している領域である。2015年の5月にIMiDsのポマリドミド,9月にヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)を阻害する新規作用機序を持つパノビノスタットがわが国においても発売され,保険使用が可能になった。
□治療薬の進歩とともに完全寛解(complete remission:CR)に至る患者が増えたため,治療効果判定法にも変化が生じている。stringent CRは通過点であり,stringent CRよりさらに深いレベルまで骨髄腫細胞を減らした微小残存病変(minimal residual disease:MRD)陰性の状態をめざした治療を検討する時代に至った3)。
□ポマリドミドの主な副作用は,貧血,好中球減少症,血小板減少症,感染症,疲労など。HDACの活性を阻害するパノビノスタットのGrade3以上の副作用としては,重症の下痢,虚弱・倦怠感,骨髄抑制,重症および致死的な心疾患,ixazomibの副作用としては,吐き気,下痢,好中球減少症,血小板減少症,末梢神経障害(6%),カルフィルゾミブの末梢神経障害の発生率はベルケイドより格段に少ないが,高血圧症や呼吸困難,心不全などに注意。エロツズマブではリンパ球減少に注意。それぞれの副作用と効果を検討しながら治療する。
□移植適応例では,寛解導入療法として3~4サイクルのボルテゾミブをベースとしたVCD〔ボルテゾミブ(ベルケイド®)+シクロホスファミド+デキサメタゾン〕療法,BD(ボルテゾミブ+デキサメタゾン)療法後に末梢血造血幹細胞を採取し,メルファランを用いた大量化学療法を実施し,自家末梢血幹細胞移植を行う。その後地固め療法・維持療法としてボルテゾミブ,サリドマイド,レナリドミドの投与を行うケースもある。
□初回治療にはボルテゾミブベースのレジメンを用いて治療を行う。細胞内で不要になった蛋白を分解する酵素であるプロテアソームを阻害して小胞体(endoplasmic reticulum:ER)ストレスを誘導し,骨髄腫細胞死を促す。
□ボルテゾミブの主な副作用として末梢神経障害がある。末梢神経障害のマネージメントとしては,通常週2回のボルテゾミブ投与を週1回投与で行うことにより軽減することができる。
□レナリドミド,サリドマイド,またポマリドミドやヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)阻害薬を用いた治療を行う。いずれの薬剤も再発難治症例において高い有効率を示す。
□パノビノスタットは2015年9月に上市されたMM治療では初となるHDAC阻害薬である。MMではHDACの異常活性がみられており,このHDACを阻害することで細胞にストレスを与え,細胞死を誘導する。
□ボルテゾミブと併用し,1日1回10~15mgを週3回,2週間経口投与した後,7日間休薬するという3週間を1サイクルとした投与法で使用する。
□ポマリドミド(pomalidomide:POM)は2015年3月にわが国でレナリドミドとボルテゾミブを含む2つ以上の前治療歴のある進行性のMMを対象に承認されたIMiDsである。主に,直接的な抗腫瘍効果,骨髄間質細胞の作用阻害,免疫調節作用などの作用機序が知られている。またユビキチンE3リガーゼ複合体構成蛋白であるセレブロン(cereblon:CRBN)に直接結合し制御蛋白質のIkaros,Aiolosを分解することでIL-2の産生を促進する薬理作用も知られている。
□カルフィルゾミブは2012年にFDAから迅速承認を受けた,不可逆的かつ選択性の高いプロテアソーム阻害薬であり,わが国においてはMMを対象に開発を行い,2016年8月に再発難治性MMに対してオーファン医薬品指定を受けた。
□elotuzumabは,骨髄腫細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞に発現する糖蛋白質であるシグナル伝達リンパ球活性化分子ファミリー7(SLAMF7)を標的としたヒト化IgG1κモノクローナル抗体で再発時にレブラミドとの併用で効果を発揮する。
□CTd(シクロホスファミド+サリドマイド+デキサメタゾン)併用療法で,超高齢者や臓器障害のある症例に使う。
□腎不全の予防のためにも2~3L/日の尿量を確保させる。高カルシウム血症や骨病変に対しては,ゾメタ®注などのビスホスホネート製剤が有効である。血中M蛋白量が多く眼底異常や精神症状がみられた場合,過粘稠度症候群を疑い血漿交換療法も検討する。
□以前は平均3年程度であった生命予後が7年程度に伸びたが,二次発癌などの新たな問題も出現している。
1) Suzuki K:Jpn J Clin Oncol. 2013;43(2):116-24.
2) Rajkumar SV, et al:Lancet Oncol. 2014;15(12): e538-48.
3) Ríos-Tamayo R Cancer Epidemiol. 2015;39(5): 693-9.
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