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甲状腺クリーゼ

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  • ■治療の考え方

    以下の4点を中心に集学的治療を行う。①新規甲状腺ホルモン合成の抑制,②甲状腺ホルモン放出の抑制と作用の減弱,③カテコラミン作用増強に伴う諸症状の制御,④全身管理,⑤可能であれば誘因の除去,を行う。

    甲状腺専門医の在籍する集中治療室の完備した施設での治療が必要である。

    ■治療上の一般的注意&禁忌

    致死率の高い重篤な疾患のため,初期対応を行い次第可能な限り速やかに甲状腺専門医が在籍し,集中治療室を完備した施設への転送を必要とする。

    ■典型的治療

    【新規甲状腺ホルモン合成の抑制】

    抗甲状腺薬:メルカゾール®(チアマゾール:MMI),チウラジール®,またはプロパジール®(プロピルチオウラシル:PTU)の大量投与。

    一手目:チウラジール®50mg錠,プロパジール®50mg錠(プロピルチオウラシル)1回4錠(4~6時間ごとに経口,または粉砕の上経鼻胃管投与),またはメルカゾール®5mg錠(チアマゾール)1回4錠(4~6時間ごとに経口,または粉砕の上経鼻胃管投与※1

    消化器症状が強く,一手目不能症例に対し以下を投与。

    二手目:<処方変更>メルカゾール®10mg注,1mL注(チアマゾール)1回2A(4~6時間ごとに皮下または筋,静注)

    ※1:PTUにはT4→T3変換抑制効果があるが,甲状腺ホルモン合成抑制効果はMMIが優れているため,MMI投与で問題ない1)

    【甲状腺ホルモン放出の抑制と作用の減弱】

    無機ヨウ素の投与※2

    一手目:ヨウ化カリウム50mg丸1回1錠(6時間ごとに経口投与),または内用ルゴール1回6滴(6時間ごとに経鼻胃管投与)

    ※2:抗甲状腺薬投与後1~2時間で甲状腺ホルモン合成抑制効果が発現するため,無機ヨウ素を先行投与すると甲状腺ホルモン合成の基材となる可能性があることから,無機ヨウ素は抗甲状腺薬投与1時間後に投与する。

    イオン交換樹脂の投与※3

    一手目:クエストラン®粉末44.4%(コレスチラミン)1回9g(6時間ごとに経口または経鼻胃管投与)

    ※3:腸管循環中の甲状腺ホルモンを吸着2)

    【カテコラミン作用増強に伴う諸症状の制御】

    脈拍管理の目的でβ遮断薬投与※4

    一手目:インデラル®10mg錠(プロプラノロール)1回1.5~2錠(6時間ごとに血圧,脈拍をみながら経口または経鼻胃管投与)

    血行動態監視下では,以下を投与する。

    二手目:<処方変更>インデラル®注1mg/mL(プロプラノロール)1回 1~2mL(ゆっくり静注し血圧,脈拍をみながら適宜調整※5

    ※4:気管支喘息患者はワソラン®(ベラパミル),ヘルベッサー®(ジルチアゼム)で対応。

    ※5:心不全併発症例に使用する際には心不全の悪化に注意。

    心房細動を併発している症例では,ジギタリスを通常の2倍量で使用する。

    【全身管理】

    相対的副腎不全に対し副腎皮質ステロイド投与。

    一手目:サクシゾン®注,ソル・コーテフ®注(ヒドロコルチゾンコハク酸)200~300mg(静注)

    *以降は8時間ごとに100mg静注※6

    ※6:副腎皮質ステロイドはT4→T3変換を抑制する。

    中枢神経症状に対しては鎮静薬や抗痙攣薬を適宜投与する。

    発熱に対しては非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)ではなく,アセトアミノフェンと冷却で対処する※7

    ※7:NSAIDsは甲状腺ホルモン結合蛋白(thyroxine binding globulin:TBG)から甲状腺ホルモンを遊離させる可能性がある。

    黄疸を呈する症例に対しては血漿交換を考慮する。

    ■偶発症・合併症への対応

    致死率の高い重篤な病態ゆえ,偶発症,合併症は多岐にわたるため,適宜対処する。

    ■高齢者への対応

    高齢者では,高熱などの典型的なクリーゼ症状を呈さない場合がある(apathetic thyroid storm)。

    ■文献・参考資料

    【文献】

    1) Isozaki O, et al:Clin Endocrinol (Oxf). 2016;84(6):912-8.

    2) Tsai WC, et al:Clin Endocrinol (Oxf). 2005;62(5):521-4.

    【参考】

    ▶ Akamizu T, et al:Thyroid. 2012;22(7):661-79.

    ▶ Bahn Chair RS, et al:Thyroid. 2011;21(6):593-646.

    【執筆者】 岩久建志(伊藤病院内科)

    【執筆者】 吉村 弘(伊藤病院内科)

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