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甲状腺悪性腫瘍

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
小野田教高 (埼玉石心会病院内分泌代謝内科部長)
児玉ひとみ (埼玉石心会病院乳腺内分泌外科)
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  • ■疾患メモ

    甲状腺癌には乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,低分化癌,未分化癌,そのほかのがんに分類され,乳頭癌と濾胞癌を合わせて甲状腺分化癌と呼ぶ。

    2003年におけるわが国の甲状腺癌推定患者数は8069人,有病率は人口1000人当たり男性0.6, 女性1.9と推定される。

    健常人で偶発的に甲状腺結節が発見された場合,悪性腫瘍である確率は4~16%程度である。

    ■代表的症状・検査所見(

    10_15_甲状腺悪性腫瘍

    【症状】

    〈乳頭癌〉

    腫瘍径が1cm以下のものを微小癌と定義している。

    諸外国でもサイズの小さい乳頭癌の発見率が増加している1)。一方,成人の剖検例で初めて発見されるラテント癌が10~30%に認められ,その大半が微小癌である2)

    〈濾胞癌〉

    診断は腫瘍細胞の被膜浸潤,脈管侵襲,遠隔転移をもってなされるため,穿刺吸引細胞診(fine-needle aspiration cytology:FNAC)で診断を確定することは困難である。

    〈髄様癌〉

    甲状腺傍濾胞細胞由来のがんであり,CEA,カルシトニンが上昇する。

    遺伝性髄様癌が25~40%存在し,その場合,常染色体優性遺伝形式をとる。

    多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)を疑う場合は,MEN2Aの場合はほかに副腎褐色細胞腫,副甲状腺過形成,MEN2Bの場合はほかに副腎褐色細胞腫,Marfan症候群,腸管神経節腫などを発生する。原因遺伝子はRET遺伝子である。

    〈未分化癌〉

    高齢者に発生する,きわめて急速に増大する腫瘍で,発熱や炎症反応増加を伴う。

    分化癌が未分化転化して発生するといわれている。

    固形癌の中でも最も予後不良であり,平均生存期間は6カ月である。

    〈悪性リンパ腫〉

    比較的高齢者に多く,急速に増大する特徴がある。

    甲状腺原発のものはほとんどがB細胞由来であり,MALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫かびまん性大細胞型リンパ腫である。

    未分化癌との鑑別が重要であるが,橋本病を背景に発生する点と,未分化癌でみられるような石灰化がないこと,などが鑑別ポイントである。

    【検査所見】

    〈乳頭癌〉

    画像所見,FNAC所見ともに特徴的所見が多く,診断は容易である。

    前頸部の結節を契機に発見されることが多いが,近年発展した頸動脈超音波検査時に,触知不能のがんが偶発的に発見される例も増えている。

    〈濾胞癌〉

    画像のみからは良性の濾胞腺腫との鑑別は困難なことが多い。それは,広汎浸潤型が少なく,微小浸潤型が多いためである。

    【診断プロセス】

    病歴では放射線被ばく歴,MEN2型や甲状腺癌の遺伝的な家族歴を聴取する。

    甲状腺の触診は重要で,一般にがんであれば,硬く可動性の乏しい結節として触知する。

    血液検査で甲状腺ホルモン(遊離T3,遊離T4)を測定し,高値の場合には,自律性機能性甲状腺結節(autonomously functioning thyroid nodule:AFTN)も考慮する。

    濾胞癌を疑う場合にはサイログロブリンの,髄様癌を疑う場合にはCEA,カルシトニンの,悪性リンパ腫を疑う場合には可溶性IL-2受容体の高値が参考になる。

    画像診断で最も有益な検査は超音波検査であり,シンチグラフィーやCT,PETなどは腫瘍の進展や転移巣の検索などのため,補足的に用いる。

    日本超音波医学会が提示した「甲状腺結節超音波診断基準」を参考に,良・悪性の鑑別を行う3)

    FNACの適応に関しては,腫瘍径が10mmを超えて悪性を疑うもの,または5mmを超えて悪性を強く疑うものは実施する。『甲状腺超音波診断ガイドブック』(日本乳腺甲状腺超音波医学会/甲状腺用語診断基準委員会, 編)のフロ-チャートに従う4)

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