□褐色細胞腫は,カテコラミンなどの種々の生理活性物質を生成分泌する神経内分泌性腫瘍で,高血圧などの多彩な臨床症状を呈する。
□副腎髄質のクロム親和性細胞が腫瘍化したもので,交感神経・副交感神経の傍神経節に発生したものはパラガングリオーマ(副腎外褐色細胞腫)と呼ばれる。
□大部分は腫瘍切除により治癒可能であるが,約10%は他臓器に転移する悪性褐色細胞腫で,治療法は未確立である。
□発生頻度は高血圧患者の0.1~0.6%と稀で,わが国の2008年度疫学調査では推計患者数は約3000人とされている1)。
□高血圧の有無から,①持続的に高血圧を呈する持続型,②血圧の変動の激しい発作型,③高血圧を認めない無症状型,の3種に分類可能である。
□古典的臨床症状はHypertension,Headache,Hyperhidrosis,Hyperglycemia,Hypermetabolism(高血圧,頭痛,発汗過多,高血糖,代謝亢進)の5Hと称され,腫瘍から分泌されるカテコラミン過剰がもたらした症状である。
□カテコラミン分泌の急激な増加は発作症状を呈し,頭痛・動悸・発汗・胸部圧迫感・腹部不快感などを自覚し,顔面や四肢は蒼白で冷感がみられる。
□激しい発作では高血圧性緊急症・急性心不全を呈することがあり,救急現場でも本疾患を頭の片隅に置いておく必要がある。
□発作の頻度は1日数回から年に数回,発作の持続時間も数秒から数日と様々である。
□画像診断の発達に伴って,偶発的に発見されるものが1/4を占め,無症状型の割合が増加している。一方で,メトクロプラミド,グルカゴン,三環系抗うつ薬,造影剤などの薬物投与,麻酔導入,運動・腹部圧迫などで発作を誘発することが知られており,本症の精査時には不用意な薬物投与などを避ける必要がある。
□褐色細胞腫はカテコラミン以外にもIL-6,ACTH,PTHrPなど種々の生理活性物質を生成分泌することが知られ,発熱,炎症反応,高Ca血症など,それぞれ特有な症状をしばしば伴う。
□非発作時には特徴的所見はないが,尿蛋白,白血球増多,空腹時血糖高値,洞性頻脈,左室肥大を認めることがある。
□大きな発作時には,著しい高血圧,高血糖,広範な心電図変化,肺うっ血などを呈する。
□褐色細胞腫の診断基準(案)が日本内分泌学会臨床重要課題「悪性褐色細胞腫」検討委員会および,厚生労働省難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班から示されている(表)。
□カテコラミン過剰の評価には,尿中カテコラミンおよび尿中カテコラミン代謝産物(メタネフリン・ノルメタネフリン)の反復測定あるいは24時間蓄尿での測定を推奨し,基準値上限の3倍以上を陽性としている。
□海外ガイドラインでは血中メタネフリンがスクリーニングとして,神経内分泌腫瘍から分泌される血中クロモグラニンAが経過観察の指標として推奨されているが,わが国ではいずれも保険適用外である。
□腫瘍の多くは球形で内部は不均一であり,3cm以上である。大きい例では内部に壊死性・嚢胞性変化をきたし,石灰化を有する例もみられる。
□MRI:T1強調画像では等~低信号,T2強調画像では高信号を呈することが一般的であるが,壊死や浮腫を伴う転移性副腎癌との鑑別は困難である。他臓器浸潤の判定や副腎外腫瘍・転移の判別にも有用である。
□MIBG〔3(meta)-iodobenzylguanidine〕シンチグラフィー:本腫瘍に特異的に集積し,副腎外腫瘍および転移巣の検索に必須であるが,10%程度に陰性例が存在する。
□CT:比較的高吸収値な腫瘍で,造影早期に著明な造影効果を示し診断に有用である。イオン性造影剤の使用は海外では安全であるとされているが,わが国の添付文書には,褐色細胞腫への使用は原則禁忌と記載されている点に留意する。
□18F-FDG-PET:種々の腫瘍に集積する非特異的検査であるが,本腫瘍の70%程度に集積がみられる。特に,MIBG集積のみられない低分化~悪性度の高い褐色細胞腫で遠隔転移検索に有用である。
□家族歴のある例や若年者,随伴疾患を伴う例では,疑われる遺伝子変異検査を考慮する。
□検査は遺伝カウンセリング体制が整備された施設が望ましい。
□発作時の症状は,虚血性心疾患,不整脈,脳卒中などの脳心血管障害や,過呼吸発作,パニック障害,片頭痛,甲状腺中毒症,薬物離脱症候群など,多くの救急疾患との鑑別を要することから,救急の現場でも念頭に置いておきたい疾患である。
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