□分娩後異常出血(postpartum hemorrhage:PPH)は,産後24時間以内の出血量が経腟分娩で500mL,帝王切開で1000mLを超えるものと定義されている1)。
□妊産婦死亡(妊婦と産褥42日までの死亡)の原因として,日本ではPPHに続発して起こる産科危機的出血が最も多く,26%を占めている2)。平成19~25年の7年間にわたる愛知県妊婦死亡調査では,42例の妊婦死亡があり,脳卒中11例,産科的肺梗塞10例,産科危機的出血は8例で,19%を占めた3)。
□産科危機的出血は診断と輸血の遅れが妊産婦死亡と関連するため,「産科危機的出血への対応ガイドライン」4)にそった適切な初期対応により,PPHから産科危機的出血への移行を防ぐことが重要である。また,一次施設では,高次施設との連携強化が重要である5)。
□PPHの原因として,弛緩出血,産道裂傷,子宮破裂,胎盤遺残,前置胎盤,癒着胎盤,子宮内反症,羊水塞栓症(子宮型)などが挙げられ,近年では羊水塞栓症(子宮型)が注目されている。ここでは,弛緩出血によるPPHの管理を中心に述べる。
□産後24時間以内の大量出血:経腟分娩では500mL以上,帝王切開では1000mL以上であるが,妊婦は出血に対応できる能力が高く,出血性ショックの症状が出にくい。しかし,1500~2000mL以上出血すると容易に循環血液減少性ショックと血液凝固異常を発症する6)。
□サラサラした非凝固性出血・DICに移行するサインで,重要であるが判断が非常に難しい。
□頻脈(心拍数≧100bpm),血圧低下(収縮期血圧≦90mmHg),冷汗,蒼白,乏尿。
□呼吸障害,意識障害。
□ショックインデックス(SI:心拍数/収縮期血圧)1.0以上ではショックを示唆する。SI 1.5以上にて,出血量2L以上と推測されるので,産科危機的出血と診断して,直ちに輸血を開始する。
□ヘモグロビン値≦7g/dL:出血直後は血液濃縮がみられ,輸液量にも影響されるので,産科危機的出血の診断と輸血の開始には上記のSIが用いられる。しかし,経験的にはヘモグロビン値≦7g/dLでは輸血の準備,≦5g/dLでは輸血を開始する。
□血液検査,基礎疾患,臨床症状より構成される産科DICスコア(詳細は他の項目を参照されたい)が,8点以上で産科危機的出血によるDICと診断する。
□産科DICスコアにおける血液凝固検査の異常値は,血清FDP≧10μg/mL,フィブリノゲン≦150mg/dL,プロトロンビン時間(PT)≧15秒(≦50%),赤沈≦4mm/15分または≦15mm/時,出血時間 ≧5分,血小板数 ≦10万/μLなどである。フィブリノゲン≦150mg/dLでは,新鮮凍結血漿輸血し,血小板数 ≦10万/μLでは,血小板濃厚液輸血を考慮し,血小板数 ≦3~5万/μLでは,血小板輸血を行う。
1190疾患を網羅した最新版
1252専門家による 私の治療 2021-22年度版 好評発売中
PDF版(本体7,000円+税)の詳細・ご購入は
➡コチラより