□胎児機能不全(non-reassuring fetal status:NRFS)とは,胎児well-being評価法を用いても,胎児状態が良好(reassuring)であることを確認できない状態ということであり,決してすべてが胎児状態の悪化を意味しているわけではない。
□胎児心拍数陣痛図から診断されることが多いが,分娩進行や症例の背景(妊娠週数,母体合併症,胎児発育状態など),施設の状況(帝王切開による児娩出までの時間)を考慮し,管理方針が決められる。
□2006年開催の第58回日本産科婦人科学会総会において,①「胎児仮死」あるいは「胎児ジストレス」という用語は使用せず,代わって「胎児機能不全」を欧米におけるnon-reassuring fetal statusに相当する邦語として使用する,②胎児機能不全とは,妊娠中に胎児の状態を評価する臨床検査において,"正常ではない所見"が存在し,胎児の健康に問題がある,あるいは将来問題が生じるかもしれないと判断された場合を言う,と定義された。
□胎児機能不全とは,臨床医が「胎児の安全を確信していない」ことを意味し,推定する病態から判断すると胎児低酸素症,胎児呼吸循環不全,胎児胎盤機能不全,などの病名が適当と考えられている。
□原因としては以下の5つが挙げられるが,妊娠や分娩に関係することあれば何でもその原因になりえる。
□①母体因子:妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病,過期妊娠など,②胎児因子:子宮内胎児発育遅延,多胎妊娠,双胎間輸血症候群など,③胎盤因子:絨毛羊膜炎,常位胎盤早期剥離,胎盤機能不全など,④臍帯因子:臍帯脱出,臍帯巻絡,臍帯圧迫,臍帯真結節など,⑤子宮因子:過強陣痛,子宮破裂など。
□胎児機能不全の診断には,胎児心拍数陣痛図によるnon stress test(NST)やcontraction stress test(CST),超音波を用いて胎児呼吸様運動,胎動,筋緊張,羊水量を観察するbiophysical profile score(BPS),胎児血流ドプラ波形などが現在の臨床の場では使用されている。
□胎児心拍数陣痛図の判読には個人差があり,注意が必要である。
□胎児心拍数陣痛図や,胎動,胎児呼吸様運動は,主に急性的な胎児状態の評価をしている。これに対して,羊水量の減少や胎児血流ドプラ波形異常,胎児成長停止は,慢性的な子宮内環境の悪化を示唆していると考えると理解しやすい。
□これら胎児well-being評価法のすべてに共通することは,偽陰性率(正常な結果にもかかわらず児が死亡する確率)は1%未満ときわめて低いが,偽陽性率(異常な結果にもかかわらず児には異常がない確率)は30~90%と高い。つまり,胎児の状態が良いと強く診断できるが,悪いという診断は難しいということである。
□胎児well-being評価の基本はこれらのパラメータの経時的な変化を考慮しながら子宮内環境を総合的に判断し,基本的には胎児状態が良い(reassuring fetal status)と判断できる情報を得ることであり,胎児状態が良いと判断できる情報が得られない場合は,胎児機能不全という診断となる。
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