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産褥期の静脈血栓塞栓症

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
小林隆夫 (浜松医療センター院長)
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  • ■疾患メモ

    静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)は,肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)と深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の総称である。

    妊娠中は血液凝固能亢進やプロテインS活性低下,女性ホルモンの静脈平滑筋弛緩作用,増大した妊娠子宮による腸骨静脈・下大静脈の圧迫などによりVTEが発症しやすいが,産褥期では,分娩後,特に帝王切開などの手術操作および術後の臥床による血液うっ滞などでVTEが発症しやすい1)2)

    以前は産褥期発症が多かったが,近年,適切なリスク評価と効果的な予防対策の浸透により産褥期発症VTEが減少し,相対的に妊娠中発症頻度が増加している。

    日本麻酔科学会の調査によれば,帝王切開後のPTE発症は2002年に比し2011年では約1/16に激減している3)。また,日本産婦人科医会による調査でも,わが国のPTEに起因する死亡例は減少し,現在は妊産婦死亡の死因第5位にまで低下した4)

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    〈DVT〉

    下肢の浮腫,腫脹,発赤,熱感,疼痛,圧痛,Homan's signなど。

    〈PTE〉

    突然発症する胸部痛と呼吸困難,軽い胸痛,息苦しさ,咳嗽,血痰やショックを伴う失神など。

    ベッド上での体位変換,歩行開始,排便・排尿などが誘因となることが多い。

    【検査所見】

    〈DVT〉

    血液凝固系検査:D-ダイマー,およびCRP・白血球数の増加(血栓性静脈炎の場合)。D-ダイマーは,帝王切開後は増加するので注意。

    下肢超音波(圧迫法もしくはカラードプラ法):血栓の描出(閉塞型,浮遊型など)。

    静脈造影:閉塞部の造影欠損,拡張した側副血行路など。

    〈PTE〉

    胸部X線:Knuckle sign(肺門部肺動脈の膨隆),Westermark's sign(末梢血管影の消失により肺野が明るく見える)。

    心電図;洞性頻脈,不整脈,SⅠ・QⅢ・TⅢパターン(Ⅰ誘導で深いS波,Ⅲ誘導で深いQ波と陰性T波),不完全右脚ブロック,右軸偏位など。

    パルスオキシメータ:酸素飽和度(SpO2)が90%以下。

    動脈血ガス分析:PaO2の低下,多呼吸のためPaCO2の低下。

    心エコー:右室負荷に伴う右房・右室の拡大,収縮期における心室中隔の左室圧排像・奇異性壁運動,三尖弁閉鎖不全,肺高血圧(肺動脈平均圧>20mmHg)など。

    造影CT:短時間で両肺から骨盤内,そして下肢に至るまで血栓の描出が可能。

    肺動脈造影:血栓による血管内の陰影欠損像(filling defect),血流途絶像(cut off),壁不整などの所見。

    核医学検査(肺シンチ):肺血流スキャンで肺区域・肺野に一致した血流欠損がみられ,肺換気スキャンに異常がなければほぼ診断確定(肺血流換気不均衡)。

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