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産褥乳腺炎

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
下屋浩一郎 (川崎医科大学産婦人科学1教室主任教授)
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  • ■疾患メモ

    分娩後,母体が妊娠前の状態に復古するまでの期間を産褥と言う。解剖的および生理的機能の回復に要する期間は臓器によって差異は認められるが,おおむね6~8週間とされている。

    妊娠すると第1三半期の間に乳腺小導管構造がエストロゲンによって増殖,分枝し,腺房の腺組織はhPL,hCG,プロラクチンの影響下で増殖し,小葉形成がプロゲステロンによって促進される。妊娠後期になると,乳房腺房細胞には初乳が充満するようになるが, 妊娠中は大量のエストロゲン,プロゲステロンによりプロラクチンの作用が抑制されているため,乳汁分泌は起こらない。

    分娩後胎盤が排出されると,血中のエストロゲン,プロゲステロンが急激に減少し,乳腺におけるプロラクチン受容体のブロックが解除されるため,乳汁分泌が開始する。乳汁生成のはじめの段階で乳汁分泌を主にコントロールしているのはプロラクチンであり,乳汁排出にはオキシトシンが必要である。

    乳汁産生と放出は,分娩後しばらく続く乳汁生成期に吸啜により乳頭が刺激され,下垂体前葉からプロラクチンが放出されることにより,乳腺の腺小胞で乳汁分泌が促進される。プロラクチン分泌は分娩直後が最高で,その後徐々に低下するが,乳頭刺激のたびに一過性に上昇する。産褥9日目以降には乳汁分泌維持期を迎え,乳汁分泌は周期的な吸啜が確立して乳汁が排出されプロラクチンやオキシトシンの濃度とは無関係になる。

    産褥3カ月を過ぎるとプロラクチン値は非授乳婦と同じになり,吸啜によっても上昇は認められなくなる。授乳を止めるとプロラクチンを分泌させる吸啜刺激がなくなり,胸部は数カ月にわたって退縮する。

    乳汁産生のために,乳房への動脈血流量が増加し相対的な静脈血還流不全が生じ,乳房内に血液,リンパ液がうっ滞するため,うっ血,浮腫が出現し,乳汁うっ積をきたすことがある。

    うっ滞性乳腺炎の原因には,乳管周囲組織の血液,リンパ液のうっ滞,浮腫による乳管圧迫,乳汁,特に初乳の凝固,剥脱上皮の閉塞による乳管閉塞,児の吸啜不全や乳頭亀裂での授乳不全に起因するオキシトシン分泌不全による乳汁排出,などが挙げられる。

    化膿性乳腺炎は乳頭亀裂や表皮剥脱部位より起炎菌が侵入することで生じる。起炎菌としては,約40%を占める黄色ブドウ球菌,連鎖球菌が多く,頻度は少ないが大腸菌,肺炎双球菌も認められる。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    乳汁うっ積では,産褥2~3日に乳房の両側性に熱感を伴った緊満感が出現し,疼痛,硬結が認められる。

    うっ滞性乳腺炎では,乳房が腫脹,緊満し硬結を触知するが,疼痛は軽度にとどまり,発赤,熱感,波動感は認められない。乳汁うっ滞が持続すると乳頭病変から細菌感染が併発し,化膿性乳腺炎に移行する場合がある。

    化膿性乳腺炎はさらに実質性乳腺炎と間質性乳腺炎に大別される。実質性乳腺炎では乳管を経て波及する上行性感染で,乳管,乳腺実質さらには周囲の間質組織に及ぶ。一方,間質性乳腺炎では,乳頭亀裂部位より起炎菌が侵入しリンパ行性に感染が波及するものであり,比較的強い症状が認められる。症状は発熱および乳房の疼痛であり,乳房の発赤,腫脹,圧痛を認める。

    【検査所見】

    白血球の増多,CRP陽性などの感染徴候。

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