□胎生3カ月頃に腹膜が内鼠径輪より鼠径管内に突出し腹膜鞘状突起が形成される。通常では腹膜鞘状突起は自然閉鎖するが,出生後も開存している状態が腹膜鞘状突起開存である。
□開存した腹膜鞘状突起に腹腔内臓器が脱出する状態が小児の鼠径ヘルニアである。小児の鼠径ヘルニアでは大多数が上記の機序で生じる外鼠径ヘルニアであり,成人と異なり鼠径管後壁の脆弱性はその成因に関与しない。小児の内鼠径ヘルニア(inguinal hernia)はきわめて稀である。
□関連する病態として,腹膜鞘状突起に水が貯留する陰嚢水腫がある。同様の病態は女児ではヌック水腫と呼ばれている。
□啼泣などの腹圧上昇時や立位時などに鼠径部の膨隆を認める。入浴時に家族により指摘されることも多い。腹圧の解除や臥位,用手還納にて膨隆は消失する。
□鼠径部で膨隆と消失を繰り返す場合は,本症の可能性が高い。
□筆者は,家族に膨隆時の写真撮影を依頼し,診断の参考としている。
□診察時に臓器脱出があれば鼠径部の膨隆として確認できる。脱出臓器が腸管や大網の場合は外観上明らかなことが多いが,卵巣の場合には触診により初めて脱出が判明することもある。膨隆の触診により脱出臓器の推定は可能で,腸管では還納時にクチュクチュとした感触があり,大網は弾力のある境界不明瞭な膨隆となる。卵巣の場合は小指頭大の硬結として触れる。
□診察時に膨隆を確認できないことは稀ではないが,立位や腹圧,跳躍などによって膨隆を誘発,確認できることがある。
□鼠径部の触診でヘルニア嚢(腹膜鞘状突起)がこすれるように触知するsilk signは有名であるが,皮下組織の厚い乳児では判断が難しい。また,silk signのみで臓器脱出を伴う鼠径ヘルニアであるかどうかの診断は困難である。
□膨隆時の超音波検査では脱出臓器が腹腔内から連続する様子が確認され,脱出臓器の判別や陰嚢水腫,ヌック水腫との鑑別にも有用である。対側で腹膜鞘状突起開存が確認されることがある。
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