吃音は,発話・発声器官に器質的異常が認められないが,音の繰り返し(連発),音の引き伸ばし(伸発),発語までに時間がかかる(ブロック/難発)などの症状により,「会話の流暢性と時間的構成」における困難がみられる疾患である。病因は未解明の部分が多いが,発達性吃音と獲得性吃音(神経原性・心因性・薬剤性)の2つに下位分類されるという事実は,吃音が多様な病態を含む症候群であることを示している。
吃音は,もともと耳鼻咽喉科領域の疾患とされているが,精神的な要因から症状が悪化することも多く,世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)では精神疾患の群に分類されている。吃音のほとんどは,幼児期の2~3語文を話し始める頃に発症する発達性吃音である。他の発達障害の併存が多く,精神疾患の中でも神経発達症群に分類され,病因として遺伝要因が大きいと考えられている。発達性吃音は自然治癒例が多く,幼児の10%程度にみられるが,就学時の有症率は2%未満に低下し,成人になると1%弱となる。
精神科に吃音を主訴として受診する患者は少なく,合併症・併存症治療の中で吃音の存在が語られることがほとんどである。診察の場面でも症状を隠そうとする患者が多く,その存在を疑って問うても開示したがらないものがいることを念頭に置いて診断を検討すべきである。
発吃して間もない幼児は,耳鼻咽喉科・小児科を受診することが多いようである。耳鼻咽喉科では,主に言語聴覚士(ST)が行う吃音検査法にて,発話100文節のうち3回以上吃音中核症状(連発・伸発・ブロック/難発:一次吃音症状)が現れた場合に吃音と診断される1)。自然治癒が多いことから,重症度や経過に応じて環境調整や言語療法が開始される。
一方,精神科を訪れる吃音患者は,社交不安や不登校,併存する発達障害に伴う症状などを主訴とし,学齢期以降に受診することが多い。ICDでは,耳鼻咽喉科で非中核症状と位置づけられている発話するための工夫や情緒的反応(二次吃音症状)も中核症状と同等に扱われる。それらの症状のうち1つ以上があり,患者が発達期早期より話すことへの不安を抱いていれば吃音の診断が可能となっており,耳鼻咽喉科に比べ診断閾値が低い。患者によっては特定の場面や特定の単語を発するときにのみ症状が現れ,診察の場面で一次吃音症状がみられないこともある。
筆者自身は,本人から吃音に困っているとの開示があれば広く吃音と診断し,主訴を成す精神科合併症・併存症の治療のひとつのアプローチとして,吃音への認知行動療法を併用する。訴えがなくとも吃音の存在が疑われる場合は,診断を問わず同様のアプローチの部分的な適用を検討する。
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