著: | 河野和彦(名古屋フォレストクリニック院長) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 208頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2017年08月15日 |
ISBN: | 978-4-7849-4643-3 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
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はじめに
わが国は,2016年に人口の1/4が65歳以上になりました。加齢とともに認知症も増えます。そして,認知症患者の生活を支える若い方々の人口は減少に転じたのです。
認知症患者は今後も想像を超えるような速さで増え,社会問題になっていきます。これに対して,地域全体で徘徊老人を守ろうとか,国を挙げて認知症疾患医療センターを建設しようとか,いろいろなことが叫ばれています。「要は認知症対策に予算を回せばいいのだろう」と考える政治家ばかりなら,それは危うい考えです。もう対策費など一銭も増やせない状況のはずです。
ここで考えてほしいのです。一番大事なことを口に出す人が一人もいないのはなぜでしょうか。筆者はこの緊急事態に本音と真実を語りたいと思っています。一番大事なこととは,医師がしっかりすることではないでしょうか。
“しっかりする”というのは,正しい診断をするということよりも正しい処方をするということに尽きます。認知症は,患者が亡くなった後の病理組織で確定診断される領域なので,正確な診断をするために費用や時間をむやみに費やす必要はなく,介護者が楽になるように,社会を困らせる行動が減らせるように,適切な薬物療法で患者の情緒と行動を安定化させることが,医師として機能するための一番の仕事です。
患者には人権がありますが,介護者にも人権があります。介護を楽にできる薬剤があるのなら,それを処方してもらう権利があるのではないでしょうか。しかし基礎研究では,記憶をよくする薬剤にしか興味を示さず,むしろその薬剤で患者を興奮させ,介護のストレスを増やしている面すらあります。パースン・センタード・ケアに対抗して,コウノメソッドが介護者保護主義を打ち出したのは,このやるせない状況を世間に広報し,医師が医師として機能するための処方を提案するためでした。
医師は,学会や西洋医学が主張する診断優先・記憶治療優先主義に惑わされることなく,患者が穏やかに明るく,歩ける能力を保ちつつ過ごせるようにすることを第一に考えるべきだと思います。患者を前にして漠然と診療するのではなく,「介護者は何に困っているのか,どうしてほしいのか」という標的症状を明確にして,自分勝手な処方をしないことです。処方後も,患者の身体と症状の変化をよく観察して,介護者の話によく耳を傾け,自身の処方がこのままでよいのか評価しながら,必要なら変えてゆきます。
この本は,認知症を専門としない臨床医にも認知症診療の一番大事なことを体系的にシンプルに伝え臨床バイブルとして重宝されることをめざしています。
2017年6月10日 筆 者