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1人でイチから始めたい先生のための 訪問診療マネジメントガイド【電子版付】

在宅クリニック経営における“真っ当なマネジメント”のコツを徹底解説!

定価:5,280円
(本体4,800円+税)

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編著: 姜 琪鎬(医療法人みどり訪問クリニック 理事長)
判型: B5判
頁数: 358頁
装丁: 2色刷
発行日: 2019年10月15日
ISBN: 978-4-7849-4850-5
版数: 第1版
付録: 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます)

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──人材確保、モノ、マーケティング、業務、財務、組織、労務。
在宅医療未経験の先生が、訪問診療を専門とするクリニックを開業しようと決意する。そこにはさまざまな“マネジメント”が大きな壁として立ちはだかり、先生を悩ませます。医師1人で“マネージングプレイヤー”にならざるを得ない院長先生がこれらのマネジメントから距離をおけば、出口のない負のスパイラルに陥ること必至です。

本書は姜琪鎬先生を中心とする経験豊富な執筆陣が、訪問診療専門クリニックの開設・運営に必要なノウハウを詳述。数々の辛酸をなめ,成功を勝ち取ってきた先駆者だからこそ語れる、本当に貴重な情報が満載です。

目次

1章 在宅医療クリニック開業とは
 1 訪問診療という“商い”
 2 時期ごとに考えるべきこと
 3 院長が身につけておくべきスキル
  1 マネジメント能力
  2 リーダーシップ
  3 リーダーシップとマネジメントの違い
2章 医師などの人材確保
 1 医師リクルーティング
  1 グループ診療をめざすためのマジックナンバー4
  2 リクルーティング活動の前に
  3 採用マーケティング
 2 医師確保(1年以内)
 3 医師確保(2年目以降)
  1 リクルーティング活動〜同行研修
  2 自院と合わない場合
 4 医師定着のポイント:常勤医師に継続的に働いてもらうために
 5 医師以外の人材確保
 6 地域連携の重要性
 7 採用におけるwebの活用
3章 開業前の準備(オフィス・モノ)
 1 オフィス
 2 モノ:すべてのモノは消耗品である
  1 総論
  2 各論
4章 マーケティング
 1 マーケティングとは
 2 マーケティングフレームワーク
 3 開業後のマーケティング
5章 業務マネジメント
 1 開業前
 2 開業後
  1 紹介時・インテイク・初回訪問時・往診時
  2 日・週・月単位での平準化
  3 開業後に発生する問題
6章 財務マネジメント
 1 開業前:知っておいたほうがよい会計知識
 2 開業後の財務
7章 組織マネジメント
 1 組織マネジメント概説
 2 組織力をどのように高めていくか:3Sと4S
 3 育成の方法 :めざすべきは離職率が低い自律的な組織
 4 フィードバックの仕方
 5 エンゲージメント
 6 事務長学
 7 「チーム全体」で考える働き方
8章 労務マネジメント
 1 労務管理のポイント
 2 残業ゼロへの取り組み
9章 マネジメントの推薦書
 書籍から学ぶ,院長が身につけておくべきスキル

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序文

在宅医療の経験のない医師が訪問診療を専門とするクリニックを開業したとする。つまり,院長になるのであるが,どんな仕事が待ち受けているだろうか。図1は訪問診療を専門とするクリニックの院長の仕事を院外と院内に分けたものである。特に力を注がなくてはならない仕事を太枠で囲んだ。
院外の場合は外部との交渉が仕事であり,それぞれの相手で交渉の仕方が変わってくる。最初のうちはすべて院長が前面に出て交渉を行うことになる。ここで最もクリティカルな交渉相手は,多職種の代表である訪問看護師やケアマネジャーであるが,交渉というよりは患家をともに支える仲間としてのコミュニケーション力が求められる。質のみならず頻度も重要であり,外部の相手の中では最も院長の時間を費やすことになる。
続いて,院内の太枠で囲んだ仕事を見ていく。
往診:医師が院長だけである限り,院長が昼夜・週末を問わず対応しなくてはならない。慣れようが慣れまいが,突発的な業務なので心身ともに負担は大きい。


図1:訪問診療専門クリニックの院長の仕事


組織・労務マネジメント:事務職でもアシスタント職でも,最初は院長が募集から面接まですべてを行うことになる。採用後は,業務を遂行できるような育成が必要で,これも院長の仕事である。また,職員がモチベーションを落とさぬよう院長が絶えず気を配らなくてはならない。
業務マネジメント:訪問診療は外来診療の業務の流れとはまったく違うので,これまでの経験はあまり役立たないことが多い。訪問を重ねる度に段取りに不具合が見つかるので,常に改善が必要である。院長が率先して改善していかない限り,成果は出にくい。
財務マネジメント:在宅医療の診療報酬は外来の診療報酬とはまったく違う体系に基づいている。おまけに介護報酬の知識も必要になってくる。医療事務経験者でも,在宅の診療報酬の詳細を知っている者は極めて少ないので,結局,事務任せにできず,自身も一緒に学ぶことになる。また,収益が出た段階で次の投資も必要になってくるが,院長自身が費用対効果を算出して意思決定しなくてはならない。
なお,この図では日常の訪問診療にはあえて触れなかった。在宅医療の未経験者であれば,診療をしながら必要なスキルを学ばなくてはならない。実は横断的かつ奥行きの深い領域であるので,詳細は9章を参考にしてほしい。
このように,院長の仕事は多岐にわたり,常に多忙を極める。ここで院内の仕事の組織・労務マネジメント,業務マネジメント,財務マネジメントに注目して欲しい。この“マネジメント”という仕事こそが,院長になって初めて経験し,悩まされることになるのだ。それはなぜかを解説したい。


突然,院長になる悲劇(図2
医師が経営をうまくできない理由は2つある。1つは準備期がないままマネジメントをしなくてはならないことと, もう1つは院長が“マネージングプレイヤー”になってしまうことだ。


図2:突然,院長になる悲劇

1)マネジメントを準備できなかったこと
医療の外の世界を見れば,係長や課長補佐など,マネジメントの入門編のような役職がある。この時期に,部下の育成や業務評価などのマネジメントの一部を任されることが,一人前のマネージャーになる準備として役立つと言える。
そもそも,医師の所属意識の優先順位は大学の医局が高いため,現在勤務している病院への所属意識が薄くなりがちである。仮にマネジメントを経験する機会を与えられても我が事として身が入るものではない。さらにはマネジメントは事務職がやる面倒な雑務だという認識も強いので,学ぼうとする動機も弱いのだ。
だから,開業を思いついても,マネジメントに関してはできるなら誰か,大抵は医業経営コンサルタントか,自院の看護師に丸投げして,自身は診療だけに専念したいのだろう。
面倒なマネジメントとはできるだけ距離を置きたい。しかし,院長になってしまうとそんなわけにはいかない。院長になった途端に,どのようにスタッフを育成すればよいかがわからないまま,財務,マーケティング,業務,組織,労務などのマネジメントに取り組まざるを得ないのだ。財務,マーケティングあたりは,高額なフィーを支払えば, 顧問税理士や医業経営コンサルタントに丸投げも可能だろう。
しかし,業務の設計および効率化に関しては,在宅医療の場合あまりにも進化が著しく,ノウハウを持っている医業経営コンサルタントは,日本中探しても五指にも満たないのが現状である。最も難関である組織や労務マネジメントに関して言えば,労務契約などの管理的側面では社会保険労務士が助言可能だろう。また,医業経営コンサルタントはあるべき姿についても助言可能だろう。しかし,実行するのは院長自身である。丸投げしようにも,実務を担ってくれる人物は院内には存在しない。
特に,最もハードルの高い組織マネジメントと正面から向き合うことを避けていれば様々な弊害が起こる。たとえば,スタッフが問題行動を起こし,スタッフにとって耳の痛い話をしなくてはならないとする。病院勤務時代に,精神論や根性論の教育を受けて嫌な思いをしているので,「あんなことはしたくない」と思っているものの,実際にどうすればスタッフが育つかという具体的な方法がわからない。結局,言いたいことがあっても遠慮して口をつぐんでしまう。院長が意を決して言えば真意が上手く伝わらず,逆に相手を怒らせてしまうなどの失態が続くだろう。最悪,院長からのフィードバックをスタッフにまったく拒否されることもあり得る。
2)マネージングプレイヤーであること
院長は,自身もプレイヤーとして訪問して,収益の担い手にならなくてはいけない。マネジメントという役割を担いつつも,プレイヤーであるということは,プレイングマネジャーというよりも,マネージングプレイヤーということである。つまり,プレイヤーがメインになってしまうのだ。
診療に追われているうちに1日はあっという間に過ぎてしまうので,スタッフとじっくり向き合う時間がないのも無理はない。余裕がないのである。かくして,マネジメントに関する業務の優先順位はどんどん下がり,院内のどこかに問題があると漠然と感じながらも先送りしがちである。だから,on the job training(OJT)にしても,本来の意味からかけ離れて,「お前ら(O)自分(J)でやれ,頼るな(T)」状態になってしまう。


マネジメントから逃げることによる負のスパイラル(図3
人を育てられないために,最初からできるスタッフに頼りきりになってしまうことが多々ある。その結果,仕事を任せられないスタッフは暇になる一方で,できるスタッフに仕事が集中するようになる。すると,できるスタッフと任せられないスタッフの間の実力格差がどんどんひらいていくので,何年経ってもスタッフは育たず,一部のできるスタッフに頼りきる状況が続いてしまう。しかし,こんな状態が長続きするはずもなく,できるスタッフも長年激務にさらされていれば,体調を崩したり,メンタルに不調をきたす恐れが出てくる。つまり,仕事のできるスタッフほど疲弊してしまうのだ。


図3:マネジメントから逃げることによる負のスパイラル

一方で,仕事を任せられないスタッフもまた,やりがいのある仕事を任せてもらえないことからモチベーションを喪失し,結果,「こんな職場ではやっていられない」とめていってしまう。そうなれば,辞めたスタッフの仕事は他の誰かがやらなくてはならない。直接的にしろ間接的にしろ,院長に業務負担が転嫁される。院長としては,ますます人を育てる時間がなくなり,さらに業務負担が増えるという負のスパイラルに陥ってしまうのだ。
マネジメントの正体
マネジメントの仕事の難しさは,他者を通じて物事を成し遂げなければならない1)ことに尽きる。プレイヤーだった頃は,自分の力で物事を成し遂げればよかったのに対し,院長というマネジメントをする立場になれば,自分が動くだけでなく,他者も動かさなければならない。
この他者の代表が自院のスタッフであるが,1人ひとり能力も違えば,モチベーションも異なる。キャリアに対する意識も,組織や職場に対するコミットメントもまるで違う。このような人たちに,院長が望むように動いてもらうためには,個々の価値観を理解しながらコミュニケーションの仕方を考えなくてはならない。筆者自身も四十代になってからひしひしと感じていることだが,年齢の離れたスタッフの悩みを理解するのに時間がかかるようになっている。彼らと同じ視点に立つことができず,何に悩んでいるのかわからないこともある。なんとか相手の立場に立って問題解決を支援したいと思っていても,「わからない」と悩む相手の「何をわからないか」が,院長自身にも「わからない」ことはよくあるのだ。
何事も適切な経験を積めば熟達していく。一方で,熟達は,熟達者から「非熟達者であった頃の思いや感覚」を奪っていくものである。熟達者が改めて非熟達者の段階にいる者の立場に立って,彼らの抱えている問題を理解しようとしても,最初に直面する「わからない状態」自体がわからないのだ。そうした堂々巡りの状況に陥るケースは少なくないはずである。
マネジメントはあなただけの課題ではない
スタッフを育成することや動かすことに苦労しているのは, 院長だけではない。これは,“あなただけの課題”ではなくて,“クリニックの経営に携わる全員が直面している課題”なのだ。そして,それらは“あなた”が特に悪いわけではなく,マネジメントを軽んじてきた医療界において構造的に生み出されてしまったものなのだ。
しかし,院長となってしまった以上,もはや,マネジメントから逃げるわけにはいかない。時代のせい,環境のせいにしていても何ら問題は解決しない。腹をくくって,マネジメントと向き合うしかないのだ。
院長は,動かなくてはならない。
院長は,動くことで,成果を残さなければならない。
先述したように,マネジメントとは,他者を通じて物事を成し遂げる技術である。本書では,院長である筆者自身の経験と,その経験から得た学びのコツをまとめた。いわば,経営のヒント集のようなものである。だからこのヒント集で,在宅医療のクリニック経営における“真っ当なマネジメント”のコツをつかんで頂ければと思う。院長の身体は1つなのだから,皆に支えてもらうしかない。また,筆者だけでなく,在宅医療の経営において卓越した成果を出されている院長,事務長,コンサルタントの方々にも,珠玉の知見を披露していただいている。
在宅医療のアウトプットは,患者さんとご家族の安心と納得感にどれだけ寄与できるかである。だから,我々の仕事には創造性や思いやりが求められる。そのためにも,ともに働く仲間たちにいきいきと自律的に動いてもらうことが必要条件となる。本書で紹介したヒントを参考にして,賢い経営を実践して頂き,明日の在宅医療がより良くなれば幸いである。
文 献
1)Koontz H, et al :Principles of management :An analysis of managerial functions. 5th Revised. (McGraw-Hill series in management). McGraw-Hill, 1972.
2019年6月  姜 琪鎬

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レビュー

今こそマネジメントを学び、訪問診療の質を向上させよう

英 裕雄(新宿ヒロクリニック院長)
訪問診療は、生活の場において様々な虚弱性を持った患者さんの生活をよりよく支えることが目的である。医療的対応はもとより、精神的な支援や時には社会的支援を織り交ぜながら、それぞれの患者さんに合わせたきめ細やかな対応が必要とされる。
かつて日本では長いこと、かかりつけ医の地域医療活動の一環として往診が行われてきた。当時は、教科書はおろかマニュアルなどもなく、それぞれの医師の個別の努力にゆだねられる独自裁量性の強い医療だった。しかし近年、急激に進む高齢化に対応するため、訪問診療をより多くの患者さんに提供できる体制が求められている。入院日数の短縮化や介護サービスの社会基盤の整備も進み、チーム医療としての訪問診療のあり方が重視されている。
チーム医療を継続するためには、新たな手法、組織化が必要となる。特に組織化、つまり組織マネジメントの必要性が高まっている。従来、地域医療においてはマネジメント基盤が乏しかったこともあり、今も手探りの努力が続いているのが実情である。その一方で、マネジメントの成否によって、医療機関の規模はもとより、診療内容なども大きく左右される時代になったといえる。
本書の編著者である姜先生は、ビジネススクールでMBAを取得されたのちに、訪問診療を複数の医療機関で研鑽され、さらに自ら開業した異色の経歴の持ち主である。
開業する以前から訪問診療においてマネジメントの重要性を認識され、マネジメント的手法をもとに骨太なフレームを構築し、地域になくてはならない訪問診療医療機関を設立されたのは、著者の先見性の証左でもある。
時としてマネジメントは固定的、普遍的法則のように語られることがあるが、本書では、開設当初のマネジメント、一人で対応しているときのマネジメント、規模が拡大したときのマネジメントなど、まさに医療機関の成長に合わせた最適のマネジメントについて述べられている。医療機関の規模や実情ごとに異なるマネジメントを説いているのが実践的である。
これから訪問診療医療機関を開設する方のみならず、すでに手探りで訪問診療マネジメントを行っている諸氏にとっても普段の実践を整理したり、多くの新たな学びを得る機会になると確信する。本書を通じて、チーム医療時代の地域医療におけるマネジメントの重要性をより多くの方に認識していただければと考える。

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