ほか編: | 武藤芳照(東京大学大学院身体教育学講座教授) |
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ほか編: | 黒柳律雄(東京厚生年金病院リハビリ科部長) |
ほか編: | 上野勝則(東京厚生年金病院内科部長) |
判型: | B5判 |
頁数: | 344頁 |
装丁: | 単色 |
発行日: | 2002年12月20日 |
ISBN: | 4-7849-6172-6 |
版数: | 第2版 |
付録: | - |
転倒と動脈硬化との関連性より,身体調節機構の不全状態を改善し、大腿骨頸部骨折等による寝たきりを防ぐにはどうしたらよいえでしょうか。
東京厚生年金病院でわが国初めての「転倒予防教室」が開始され、5年を経過。その経験をふまえ、ここに教室の実際を余すところなく解説しました。各地の事例も紹介しています。
転倒予防のマニュアルとして、病院,保健・福祉施設等へ自信を持ってお薦めします。
診療科: | 内科 | 老年科 |
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整形外科 | 整形外科 | |
リハビリテーション科 | リハビリテーション科 |
I)転倒予防の医学的基礎
1.中高年者の転倒と身体特性との関連
2.中高年者の転倒の実態—どのように転ぶのか—
3.転倒予防への医学的対応
4.医療経済からみた骨粗鬆症・転倒予防の運動療法・生活指導の意義
5.転倒が家計に及ぼす影響
II)転倒予防の科学的基礎
1.骨のメカニカルストレスへの応答と運動療法の意義
2.骨代謝からみた運動療法の意義─運動は何のために
3.高齢者の運動処方の基本的概念
4.女性のライフサイクルからみた運動療法の科学的基礎
III)転倒予防教室
1.教室の成り立ち
1 機構,人員等
2 受付業務の方法,工夫
2.健康診断,身体機能測定
1 転倒に関する問診
2 内科的診察
3 整形外科的診察
4 体型・体格評価
5 健脚度の測定・評価
6 体平衡機能(単脚直立・重心動揺)の測定・評価
7 X線検査
8 骨密度測定
9 血液・尿検査
10 気分・感情・自己効力感
11 運動実施の適応と禁忌
12 クラス分け
3.運動指導の目的・方法・期待される効果
1 運動前の問診・診察
2 運動指導全体の流れ
3 ストレッチング
4 筋力増強運動
5 バランス訓練
6 歩行指導
7 運動あそびの基本概念
8 自己効力感を高める働きかけ
9 道具を用いない運動あそび
10 リズム運動
11 ボール運動あそび
12 スポンジテニス
13 水中運動,水泳
14 運動指導中の医師・看護師の支援と監視
15 運動日誌と宿題
16 履き物指導
4.健康・生活指導
1 杖の指導
2 低骨量者への指導
3 動脈硬化傾向の者への指導
4 飲水のすすめ
5.総合評価・指導
1 総合評価の方法と内容
2 総合指導
3 修了証授与
6.再会教室
1 運営方法と内容
2 転倒日誌
3 2回目以降の健診(ニコニコ健診)
4 特別プログラム(病院以外での再会教室)
7.教室参加者の特性
1 性・年齢分布,入室の動機,地域分布
2 既往歴
3 服薬の状況
8.事故予防と安全対策
1 運動指導に伴う事故予防体制
2 健康診断で「運動不可」とされた事例
3 運動中の転倒事例
4 プログラムを途中で中止した例
9.効 果
1 歩行・姿勢
2 健脚度
3 平衡機能
4 転倒・骨折
5 気分・感情・自己効力感
6 QOL
7 修了者の感想
10.バリアフリー住宅と転倒後症候群
1 バリアフリー住宅に住む高齢者の転倒回避能力
2 転倒恐怖・転倒後症候群
3 転倒─大腿骨頸部骨折後の事例
IV)教育・普及活動
1.教育・普及用資料
2.「一日転倒予防教室」および「指導者養成講習会」
3.各地の事例
1 地域巡回型転倒予防教室の試み(広島)
2 元気でいまいか「フレンドの会」(岐阜)
3 ミニ一日転倒予防教室(高知)
4 高齢者の転倒予防への取り組み(福岡)
5 当院における転倒予防教室の取り組み(札幌)
6 国立療養所中部病院における転倒予防教室(愛知)
7 転倒予防への取り組み(岩手)
8 転倒予防教室の紹介(富山)
9 転倒予防教室の紹介(新潟)
10 転倒予防教室の紹介(NPO元気・宮崎)
V)資 料
1.楽しむ運動のプログラム
1 からだを使ったあそび
2 リズム運動
3 ボール運動
4 水中運動
5 水中運動(再会コース)
2.筋力トレーニング
3.ストレッチング
4.バランス訓練
5.各種書式
コ(高)齢者の転倒、骨折そして寝たきりや介護を予防することは、高齢者自身の切なる希望ばかりでなく、高齢者とともに暮らす家族、地域社会、そして国、世界にとってもそれぞれに重要かつ深刻な課題となりつつある。
その結果に至る主たる原因である転倒を予防する取り組みである、『転倒予防教室』には、1人医学・医療関係者ばかりなく、保健、福祉、行政、教育、運動・スポーツ等の多岐にわたる専門家の知恵と経験、そして連携・協力が必要である。
ローマは1日にしてならず”と言われるが、新たな理論を構築し、それに基づいた実践活動を創設して広げていくには、相応の時を要するものだ。島根県と長野県での3年にわたる疫学調査の結果を基礎にして、転倒を生活習慣のひずみの結果としてとらえ、予防につなげようという考えから、実際の「教室」に形成して丸5年が過ぎた。
「教室」のシステムは、試行錯誤を繰り返す中で、この間にほぼ整備されてきた。次は、医療機関での通常業務のひとつとして成立するような現実的な工夫と充実・改善を図り、定着させていくことが、創始した者の社会的責任として求められている。その整備にさらに時を要するだろう。
バランスを保つことが、ヒトの転倒を予防するためにきわめて重要である。日常生活の中での立ち、歩く、またぐ、昇って降りるなどのごく普通の動作は、実は自然な形でバランスを保たれて初めて円滑に行われる。
逆に、それらすらうまく行えないことは、「脚」ばかりでなく、からだ全体を調節する仕組みが弱り、ひずみをきたしていることを表していると考えられる。この発想から生まれた「健脚度」は、転倒回避能力や高齢者の移動能力の指標という意義を有するとともに、生活実感のある体力測定・評価法が、多様な応用性のあることを示してきた。
ナ(何)か特別な形、方法、内容のものでなければ、「運動」とは扱われない、みなされない傾向が長く続いてきた。肥満、高血圧症、高脂血症などの生活習慣病予防のための「運動」は、朝起きてから夜寝るまでの日常生活の中で、いかにしっかりとからだを動かすかにかかっている。そのためには、運動のしかたを覚えるとか身に付けるというより、自身のからだの理(ことわり)を知り、こまめにからだを動かし日常の身体活動を活性化するように、意識を変えることが最も必要である。
イ(1)日転倒予防教室」では、次の5つのことを伝えている。
1.転倒は原因ではなく結果である
2.ふだんが大事
3.ストレッチング(筋伸ばし体操)としっかり歩くことが基本
4.よく水を飲むこと
5. 転んでも起きればいい
特に、「転んだらもうおしまい」と考えるのではなく、転ばないにこしたことはないが、仮に転んでケガをしても、ちゃんと回復して、また起きればいいというような明るく前向きな姿勢および自信と希望を持つことが大切だということを、「転倒予防教室」の多くの参加者から学び、それを強調している。
平成14(2002)年8月、俳優松本幸四郎氏(60)は、ミュージカル「ラ・マンチャの男」の1000回公演を達成した。とても1000回には到達はできないが、せめてこのスタッフで全国各地を巡って、100回の「1日転倒予防教室」をいつか達成したいものだと思う。
また、本書で示した基本理念と指導内容が、全国の様々な市町村、各種保健・医療・福祉施設等で活かされ、独自の特色を持った「教室」に発展していくことを希望している。高齢者はもちろんのことであるが、性、年代を超えて、1人1人が元気で生きがいを持った人生を送ることができるために。