少子化のために小児の人口動態の減少が社会問題化している。この時期こそ小児領域の健康管理が重要となり、情報の80%を担う視覚器の重要性はますます高くなってきた。われわれ眼科医は、小児の視器の健康管理とquality of vision(QOV)の維持に努めなければならない。
小児は成人が小型化したものではないのは当然であるが、生後から視力が成人の域に達するまで刻々と変わり、その時点で発症する病気について理解する必要がある。特に視力に関しては視覚発達の臨界期があり、小児の疾患を理解する上でも、治療に関しても注意しなければならない。
このような小児特有の眼の特性を意識して一般眼科臨床医向けに『小児眼科のABC』として本書を発行したのは1995年4月であった。20世紀から21世紀に変わり、眼科学も大きく進歩してきた。小児眼科領域においても、個体の発生、分化等基礎的分野の発展のため、先天異常の発生ならびに病態が明らかになってきた。また各種遺伝性疾患の遺伝子も明らかとなってきており、難治性遺伝性疾患の病態も徐々に解明されてきている。また一方では、小児眼科領域でもっとも患児の非協力性のために困難な眼科的検査法も、比較的侵襲の少ない検査法が開発され、また新しい画像診断等も開発されてきている。
このような小児眼科領域における進歩・発展を理解して、眼科一般臨床医は、小児の眼疾患患者を診た場合に新しい知識を吸収した上で対応する必要がある。また小児眼科における困難な点は、患者が聞き分けのない乳幼児であるのみならず、必ず家族がついてくるので、家族、とりわけ両親への対応も難しく、心をくだかなくてはならない。
今回の改訂にあたっては、旧版の読者からいただいた貴重なご意見を参考にし、慶應義塾大学医学部眼科学教室出身の各執筆者に、現在の小児眼科の最新レベルで一般眼科臨床医がどのように小児の眼科患者を診察したらよいかを記載するように努めた。小児の患者が眼科外来を受診した時に、いかに問診し、検査・診断・治療をどのように考えるかを実際に症例を提示して疾患の理解を深めていただくように配慮したつもりである。
旧版でも書いたが、本書は一般眼科医を対象としているが、これから小児眼科を学ぶ医師の入門書として、また小児科医、視能訓練士の方々にとっても大いに役立つものと信じている。
2003年2月
小口芳久