著: | 清水啓史(医療法人茗山会 清水眼科/島根大学医学部眼科学講座) |
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判型: | A5判 |
頁数: | 240頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2024年11月20日 |
ISBN: | 978-4-7849-2501-8 |
版数: | 1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると,本書の全ページを閲覧できます)。 |
◆「眼を見ればわかる」のに「眼を見るのが難しい」…眼科で診断するには角膜や眼底などをきちんと診察する(=眼を見る)ことが重要ですが,そのスキルを身につけるにはかなりのトレーニングが必要です。
◆一方,診断学的に考えることは初学者でも実践可能なスキルですが,救急や総合内科のような系統立った眼科の診断推論の教科書はありませんでした。
◆本書は,そんな眼科の診断推論について,総合内科や多彩な眼科(大学病院・個人開業医)での経験を持つ著者が教えます!
第1章 診断の前に
1 情報収集
2 眼科の問診(OQULAR法)
3 SQ(semantic qualifier)ってなんだ?
Case 1 片眼の充血
4 ROS(review of systems)
第2章 診断とは(System 1とSystem 2)
1 診断するということ
2 診断のプロセスあれこれ
コラム1 直感的診断(System 1)の鍛え方
第3章 鑑別診断の検討(System 2)
1 鑑別診断の作り方
2 鑑別診断の検討 ①疫学
3 鑑別診断の検討 ②オッカムの剃刀とヒッカムの格言
Case 2 関節痛と漿液性網膜剝離
4 鑑別診断の検討 ③検査特性
Case 3 サルコイドーシスなのかどうなのか?
コラム2 その検査,本当に必要ですか?
第4章 診断クラスターという考え方
1 Pivot and Cluster Strategyとは
Case 4 樹枝状っぽい角膜炎
Case 5 網膜下液(subretinal fluid)
Case 6 緑内障
2 状況クラスター(situation cluster strategy)
Case 7 眼底までぱっと見て異常のない両眼性視力低下
Case 8 糖尿病がなく明らかなRVOもなさそうなCME
Case 9 治らない結膜炎
コラム3 眼科抗菌薬療法の問題点
コラム4 過剰診断という病
第5章 診断後
1 診断エラーに学ぶ
Case 10 診断エラー症例
2 クリニカル・パール
コラム5 僕らがカンファレンスをする理由─トゲトゲ理論
3 外来を早く回す方法
4 外来を早く回す方法(番外編)
コラム6 専門医資格は必要か
5 診断フローチャート
コラム7 開業医は総合診療
索 引
私は医師のキャリアの最初は沖縄の民間病院で初期臨床研修を経て,1年間,総合内科の後期研修医として働いておりました。
当時は救急や総合内科の分野に興味を持っており,問診を行い,患者さんの抱えている問題を分析し,身体全体を診て,総合的に診断するということに魅力を感じていました。その後,思うところあって眼科に転科したのですが,転科したての頃は右も左もわからず,診察するにも眼底を見ることもできず,とても苦労したことを覚えています。
飛蚊症の患者さんが来ると,自分の眼底検査では異常なさそうだと思っても,先輩の先生に診てもらうと網膜裂孔が発見され,レーザーをされる,ということが一度や二度ではありませんでした。自分の診察ではとても不安で,結果的にほぼ全症例,隣の診察室の先生に診てもらっていました。
ほんの数カ月前までは内科系の臨床医として診療したり,研修医の指導もしており,それなりに院内のスタッフからの信頼感を感じたりして,いくらか自信をつけていたので,眼科に転科したとたんに“まったくの無能な人”,“院内で存在価値のない人”になってしまったという事実にうちのめされました。
眼科医なんて,なるんじゃなかった…。
眼科の診察,所見をとることが難しくてできないという点がまず大きなハードルでした。
スリット,使い方難しい,なんで斜めから細い光を当てるのかよくわからない。
眼底,見えない。
眼救急や内科のように血液検査や画像検査を手がかりに考える,ということもできない。自分の眼,自分の手を使った診療にかかっている。
プレッシャーに震えながらも何とか眼底写真を撮ることで代用しようとしたりしながら,半年くらいするとそれなりには所見が取れるようになりました。しかし,そこから「眼科医です」と名乗って仕事できるようになるまで,けっこう時間がかかりました。
とにかく,診断ができなかった。
その大きな理由に眼科の診断についての考え方,型がなかなか身につかなかったという点がありました。上級医の先生がいかにして診断をつけているのか,どのように考えているのかがピンときませんでした。わからなければ勉強するのが当然で,眼科の入門書のような本を読み漁ってみました。勉強することで少しずつ知識はついてきました。しかし,眼科の本は「この疾患はこういう感じです」というように各論的な,縦の情報に関する記載が圧倒的に多く,なかなかそのときの困ったポイントにフィットしませんでした。要するに,どの疾患の項目を読めば良いのかがわかりませんでした。この病気かこの病気っぽい,というところまでわかっていれば各論的知識が生きてきます。最終的にはそこを詰めていくことが診断の精度に一番関わってきます。
ただ,どの疾患を想定すれば良いかわからない,どのようにアプローチすれば良いかわからないという段階では,参照して似た所見のところを手当たり次第に読むような使い方をするしかありませんでした。手当り次第に検査して「この疾患に似ているから,この疾患かな?」,「この所見があるから,この疾患かな?」というのは当てずっぽうに近く,本当にその疾患であるという根拠と,他の疾患ではないという根拠が不十分です。そもそもこの症状に対してどう考えるか,といった総論的な診断学に関する内容や,疾患横断的な記載がもっと欲しいと思っていました。
救急や総合内科領域では,症状からどのような疾患群を鑑別するか,などという視点の診断学や疾患横断的な本がたくさん出版されており,実際の日常臨床でとても役に立っていました。「眼科にもそのような本があればいいな」と思いながら診療経験を積み,診断もときに間違えたりしながらも自分なりに学んできました。
眼科医になって十数年が過ぎ,日常診療やカンファレンスで大学病院や市中病院で多くの指導医の先生の診断に関する考え方に触れ,そこには言語化されていない確かな方法論があるのではないか,そしてそれは内科医時代に触れた診断学の方法論にも通じるものがあるのではないかと考えるようになりました。
また,大学の眼科医局でのカンファレンスでは他科の臨床研修で診断学の知識はあるけれど眼科の診断に習熟していない若手の先生と診断学の知識はあまり知らないかもしれない(失礼!)が眼科の診断に習熟しているベテランの先生とのやりとりがあまり噛み合っていないシーンを見ることがありました。
本書はその両者の橋渡しができる内容になれば良いなと思い執筆することにしました。
これまでの眼科の診断についての本
● 典型例,わかりやすい写真,所見などが豊富に載っている。
● 一つ一つの疾患の全体像を学ぶのに適している。
● 診断が何かわからないときに,これに似ているな,などとカタログを開いて選ぶような使い方で便利に使える。
● 眼科領域全体の知識がある程度把握できた後には特に有用。
一方で
● 症状からどう考えるか,という視点にたった問題解決型,疾患横断的な記述
● これにも似ているし,これにも似ている,というときにどう考えるかなどの思
考の根拠
● 眼科領域全体の知識がついてくる前に読んでも指標になる記述
など,診断学について記載した本は少ない。
本書の目的
● 診断学の基本的な内容を眼科に援用できそうな形で紹介すること
● 診断のプロセスに志向した眼科の臨床の学び方を提案すること
おすすめの読者
● 眼科に入るか迷っている先生
● 眼科に入ったけれど眼科の考え方に戸惑っている先生
● 眼科医の指導に頭を悩ませている先生
● 眼科医の診断や思考過程に興味のある視能訓練士
● 眼科看護師,その他のスタッフ
本書は眼科の本なのに症例の写真は最小限です。写真を見てしまうと, その写真の読み方みたいな議論になってしまうため,あえてあまり載せていません。疾患の解説も最小限です。それらは成書を読んで理解を深めていただくことをおすすめします。
2024年11月
医療法人茗山会 清水眼科/島根大学医学部眼科学講座
清水啓史