著: | 島田宏之(日本大学医学部元教授/宮原眼科大宮クリニック名誉院長) |
---|---|
著: | 中静裕之(日本大学病院アイセンター長,日本大学医学部教授) |
判型: | B5判 |
頁数: | 192頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2024年02月09日 |
ISBN: | 978-4-7849-4549-8 |
版数: | 第3版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
ヒトは出生時に産道を通過するとき,皮膚,口腔や腸管の粘膜表面に微生物が定着します。微生物の多くは細菌であり,病原性を示さないことから常在細菌叢と呼ばれています。しかし細菌だけでなく,真菌,ウイルスなども確認されていることから,微生物叢と呼ばれるようになってきています。
眼においては結膜の常在微生物は,侵入してきた新たな微生物を排除し,発病をまねかないように働く「オキュラーサーフェスの生体バリア」です。微生物の多くは非病原性ですが,結膜と眼内とでは免疫能が異なるので,眼内では起炎菌となります。
白内障手術後の眼内炎は,主に術眼の結膜や眼瞼から微生物が眼内に迷入して生じるため,感染予防が大切です。白内障手術時には,①眼表面をヨウ素系消毒薬で洗浄して,微生物の眼内侵入を防ぐ「水際対策」を行い,②前房に侵入した微生物は洗浄により減少させ,③手術終了時に,前房や硝子体に残存した微生物は抗菌薬で減菌するのが論理的には有効です。しかし,眼内に残存した微生物に対する減菌には限界があるため,水際の対策による感染経路の遮断が最も重要といえます。この水際の対策は,硝子体内注射,硝子体手術,屈折矯正手術,角膜移植術などといった,眼内に器具を挿入する治療・手術では必須です。
そこで我々が注目したのはヨウ素系消毒薬です。ヨウ素系消毒薬は抗微生物スペクトルが広く,安全性もあることから水際対策として有用です。ヨウ素系消毒薬のポビドンヨードは術野粘膜の消毒として,ヨウ素・ポリビニルアルコール点眼・洗眼液(PA・ヨード)は洗眼殺菌として,それぞれ添付文書で認められています。両者は同一のヨウ素濃度であれば,同等の消毒効果を示します。なお,ポビドンヨードは希釈により殺菌能力が高まり,短時間で殺菌できるという特性があります。
ヨウ素系消毒薬の殺菌効果は,遊離ヨウ素の酸化作用によります。この遊離ヨウ素が,細菌,真菌,ウイルスの膜表面に作用することで死滅させます。これらへの選択性はありませんが,耐性菌を作らないのが利点です。また,ヨウ素系消毒薬は接触した健常組織の細胞膜蛋白にも反応するため,健常組織への障害が少ない濃度で使用する必要があります。
ヨウ素系消毒薬以外の消毒薬やオゾン水も,細菌などの膜表面に作用して死滅させる点や,耐性菌を作らない点,健常組織にも反応する点はヨウ素系消毒薬と同様です。しかし,希釈により殺菌能力が高まるという特性は,ポビドンヨードに特有なものです。
第3版では内容を刷新し,新たに「屈折矯正手術」「角膜移植術」「緑内障手術」「斜視手術」という項目を追加しました。術後眼内炎は,眼科医が総力を結集して克服しなければならない術後合併症です。本書は,術後眼内炎の予防と治療について,多数の論文から得られた正確で有益な情報を,読者に提供できるものと思います。
2024年1月 島田宏之