認知症を専門とされない先生方にとって認知症診療で最も困ることは、介護する家族から認知症の病態や介護について質問されることではないでしょうか。認知症に対する根治的な治療がない現在、認知症診療で最も大切なことは、介護であり福祉であると著者は考えております。わが国における急速な高齢社会のなかで、医院・クリニックで今まで身体疾患を診てきた高齢患者さんが認知症に進展する可能性は高く、その際、かかりつけ医の先生方に求められることは、認知症介護に関するスキルの習得であろうと思います。認知症とはいかなる病態なのか、認知症とアルツハイマー病の関係はどうなのか、患者さんにみられる物盗られ妄想とはどういう状態なのか、そしてその対策をどうするかなど、多くの質問を介護する家族あるいは介護スタッフから受けることになります。その際、わかりやすく説明できるスキルを身につけていることが患者さんや家族、介護スタッフから信頼を得ることになると思います。実際に先生方が認知症患者さんを診察している際、いろいろな疑問や困ったことに遭遇することも多いと思います。本書は、介護する家族あるいはかかりつけ医の先生方が認知症診療で疑問に感じていること、聞きたいことをQ&A方式でまとめたものです。介護する家族からしばしば受ける質問や疑問に対して医師がどう答えたらよいかを具体的かつわかりやすく解説しています。また、認知症を専門とされない医師が困っていること、聞きたいことについて日常臨床で役立つスキルを提供しています。実際の診療で困ったことに出会った際、本書の該当する項目を読んで頂くと解決策がみつかると思います。さらに必要に応じて「このように説明するとよい!」を設けて、実際に著者が介護家族に説明している内容を具体的に記載しております。これらを参考にして介護家族に認知症についてわかりやすく解説して頂けるとよいのではないかと考えております。本書が先生方の明日からの認知症診療のお役に立つことができれば、著者の喜びとするところであります。