嚥下機能評価において鼻腔の表面麻酔による前処置を行った嚥下内視鏡検査(videoendoscopic examination of swallowing:VE)の位置づけは明確でなく,それを明らかにするために嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing:VF)との検査間隔が3日以内の24例を対象に本研究(後ろ向き研究)を行った。アウトカムはピューレ食より上の食形態の経口摂取とし,前処置を行ったVEの各評価項目,すなわち誤嚥,梨状陥凹などの唾液貯留,咳反射・声門閉鎖反射,嚥下反射の惹起,咽頭クリアランスの程度との関係を調べると,唾液貯留のみ有用な指標であった。しかし,過大評価につながることがあり,中等度以上の貯留が認められた場合にはVFを併用して総合的に経口摂取の可否を判断すべきである。
日本耳鼻咽喉科学会編「嚥下障害診療ガイドライン 2012年版」1)にも記載があるように, VFは臨床現場において最も信頼性の高い嚥下機能評価法であるが,ベッドサイドで行うことができる簡易的な検査ではなく被曝のリスクもあるため,その欠点を補完するVEが近年急速に普及している。同ガイドラインによると,VEは早期咽頭流入や嚥下反射惹起のタイミング,咽頭残留,喉頭流入,誤嚥を指標とすることでVFに匹敵する情報が得られるとされる。しかし,VEでは咽頭期の嚥下動態を詳細に観察できないことがあるだけでなく,内視鏡が鼻腔を通過するときに患者に不快感を与えることが少なくない。
Cohenら2)によると98%の症例が次回の検査を受けることに同意したものの,87.4%で検査時の不快感(軽度48.4%,中等度31.5%,高度7.5%)があったという。対処法は鼻腔の表面麻酔による前処置であるが,表面麻酔用局所麻酔薬による嚥下機能への影響,すなわち咽喉頭粘膜の知覚低下の可能性からなるべく控えるべきとされている。しかし,特に認知機能の低下した高齢者では不快感に伴う体動などで検査の安全性が脅かされることがあり,前処置が不可欠な場合がある。現在のところ,嚥下機能評価において前処置を行ったVEの位置づけは明確でなく,今回筆者らはそれを明らかにするために本研究を行った。
対象は,2012年3月~2013年6月の間,当院で嚥下機能評価としてVFおよび前処置を行ったVEを施行した症例のうち検査間隔が3日以内の24例であり,嚥下機能の日内変動が認められうるパーキンソン病およびパーキンソン症候群を有する症例は対象に含まれていなかった。検査の同意は基本的に本人から得たが,認知症などで本人の意思表示が難しい場合には家族から同意を得た。VEは嚥下障害の診断に精通した当院の耳鼻咽喉科専門医1名に依頼し,同医師にはVFの結果やこの研究の主旨は知らされていなかった。
VEの評価は兵頭らによるスコア評価基準3) に基づいて行われ,誤嚥の程度は「なし・軽度・高度」の3段階,梨状陥凹などの唾液貯留,咳反射・声門閉鎖反射,嚥下反射の惹起,咽頭クリアランスは0~3の4段階(0は正常,3は高度障害)に分類された。また,VEに使用された内視鏡はオリンパスメディカルシステムズ社製OLYMPUS ENF TYPE VQ(挿入部外径3.6mm)で,テストフードにはゼリーまたはヨーグルトが用いられた。アウトカムは検査後のピューレ食より上の食形態の経口摂取とし,経口摂取開始後に誤嚥を示唆する臨床所見,すなわち心不全や気管支喘息による影響が除外された上での発熱や酸素飽和度の低下,あるいは肺雑音の聴取が認められた場合は経口摂取を中止し,経口摂取不可群に分類した。
なお,経口摂取の可否についての判断は筆頭著者が施行したVFの結果に基づいて行い,誤嚥を認めた場合,もしくは誤嚥を示唆する臨床所見かつ喉頭侵入を認めた場合を不可とした。そして,各評価項目とアウトカムとの関係を調べることで,前処置を行ったVEの意義を検討した。
本研究は後ろ向き研究で,統計学的検討はShapiro-Wilk検定で正規性,F検定で等分散性を検定した後に,Studentのt検定,Fisherの直接確率検定,Mann-Whitney U検定を用いて行い,有意水準は5%とした(統計解析ソフトはEZR version 1.23を使用した)。
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