切除可能膵癌では,外科的切除とそれに続く術後補助化学療法が標準治療である
術後補助化学療法のレジメンは,S-1単独療法が推奨され,S-1に対する忍容性が低い症例では,ゲムシタビン(GEM)単独療法が推奨される
術後補助化学療法の有害事象として,S-1では下痢,口内炎などの消化器毒性が,GEMでは白血球減少,好中球減少,AST増加,ALT増加などの血液毒性が特徴的である
「膵癌取扱い規約 第7版」では,膵癌を切除可能性分類上,「切除可能(resectable)」,「切除可能境界(borderline resectable)」,「切除不能(unresectable)」の3つに分類している。このうち「切除可能」とは,標準的手術によって,肉眼的にも組織学的にもR0切除が達成可能なもの,と定義されている。具体的には膵ダイナミックCT所見に基づき,「上腸間膜静脈/門脈に腫瘍の接触を認めない,もしくは接触・浸潤が180度未満でみられるが閉塞を認めないもの。上腸間膜動脈,腹腔動脈,総肝動脈と腫瘍の間に明瞭な脂肪組織を認め,接触・浸潤を認めないもの」と記載されている。これに対し,「切除可能境界」は標準手術のみではR1切除になる可能性が高いもの,また局所進行による「切除不能」はR2切除になる可能性が高いものとされている1)。したがって現段階では,「切除可能」膵癌のみが手術によって根治的治療が可能で,手術先行(upfront surgery)によって治癒が期待できる病状と言える。
実際,「膵癌診療ガイドライン2016年版」では,「resectable膵癌に対して外科治療は推奨されるか?」とのclinical question(CQ)(RS 1)に対して,そのステートメントとして「外科的治療を行うことを推奨する(推奨の強さ:1,エビデンスレベル:B,合意率:100%)」と記載されている。また,「切除可能膵癌に対して術前補助療法は推奨されるか?」とのCQ(RA 1)に対しては,術前補助療法は,「周術期への影響や長期予後への効果が明確に証明されていないため,臨床試験で行われるべきであり,それ以外では行わないことを提案する(推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C,合意率:97.4%)」と記載されている2)。2018年7月時点においても,切除可能膵癌に対して術前治療が有効であるというエビデンスはいまだない。これに対し,次項に述べるように,術後補助化学療法は切除単独に比べ,その有効性が明らかになっている。したがって,現時点における「切除可能」膵癌の標準治療は,外科的切除とそれに続く術後補助化学療法である。