【様々な要因で上昇するため,臨床症状や他検査を統合した評価が必要である】
CA19-9は膵管,胆管,胆囊,唾液腺,気管支腺,前立腺,胃,大腸,子宮内膜などに局在する蛋白質で,これらのがん化により大量に産生され血中濃度が上昇します。特に,膵癌で80〜90%,胆管癌,胆囊癌で70~80%,胃癌,大腸癌,肝癌で30~60%の陽性率を示し,消化器癌の腫瘍マーカーとして臨床応用されています。消化器以外では肺癌や卵巣癌,子宮体部癌においても10%程度陽性となりますが,いずれのがんにおいても早期癌での陽性率は低く,がんに対する陽性的中率は2.5%と報告されています1)。それゆえに,CA19-9はがんのスクリーニングには不適であり,治療効果のモニタリングに有用であるとされています。
一方で,CA19-9は正常細胞からも産生されるため,膵炎,胆管炎,閉塞性黄疸,胃炎,肝炎,肝硬変などの良性疾患においても高値となることがあります。また,子宮内膜症や卵巣囊腫などの良性婦人科疾患においても上昇する可能性があり,女性におけるCA19-9要精検率は男性の4倍であったとの報告もあります2)。CA19-9上昇例において,必ずしも婦人科疾患が関与しているとは限りませんが,多くの女性における軽度上昇の原因である可能性が指摘されており,女性の上昇例においては精査をお勧めしてもよいかもしれません。
その他の原因としては,気管支炎,特発性肺線維症や気管支拡張症などの良性呼吸器疾患でも上昇することが知られています。糖尿病や若年女性,妊娠,薬剤等でも高値を呈することがあります。さらには,CA19-9に関連する疾患が特定されない場合においても上昇を認めることがあります。このように,CA19-9上昇に関連する疾患・病態には臓器特異性がなく,症状や身体所見,他の検査結果を総合して判断する必要があります。
CA19-9高値を認めた場合には,消化管内視鏡検査や腹部超音波検査,CT等で悪性腫瘍の有無の検索が必要ですが,本症例のように病変の検出に至らないことも多く経験します。がん以外でもCA19-9高値を示すことが多々あること,腫瘍マーカーはあくまでもがんの補助検査であり,必ずしもがんの罹患を意味するものではないことを十分に説明する必要があります。また,有意所見を認めない場合においても,一定期間はCA19-9値の推移をfollowすることをお勧めします。
【文献】
1)鈴木朋子, 他:人間ドック. 2015;30(1):22-9.
2)矢島義昭, 他:人間ドック. 2014;29(4):610-5.
【回答者】
青木武士 昭和大学医学部外科学講座消化器・一般外科学部門主任教授