膵頭十二指腸切除術は侵襲の大きい手術で合併症も多く、術後在院日数3週間以上が一般的だ。聖路加国際病院では、マネジメントの父、P.F.ドラッカーの理論を応用して在院日数を短縮化し最短6日で退院させている。なぜ大幅短縮が実現できたのか。消化器・一般外科部長の海道利実氏に聞いた。
患者さんに合併症が少ない手術を提供し術後のQOLを上げるためです。何しろ膵頭十二指腸切除術は、消化管の再建も必要になる高難度の手術です。膵がんや胆管がんの患者さんは低栄養が多いこともあって、膵液瘻、胃内容排泄遅延などの合併症が起こりやすく、これまでは3週間以上入院するのが当然と考えられていました。
しかし、これまでの研究で、1週間入院すれば、最低でも2%筋肉量が落ちることが分かっています。加齢による筋肉量の低下は年間1%ですから、たった1週間で2年分筋肉量が低下してしまうことになり、特に高齢者の長期入院はQOL低下につながります。
そこで、ドラッカーのマネジメント論を参考に2020年4月から、「膵頭十二指腸切除の術後10日以内の自宅退院」を目標アウトカムに、周術期リハビリ栄養管理と合併症の少ない手術に取り組みました。
ドラッカーは著書の中で、「企業の目的は顧客の創造である」としています。企業は、マーケティングとイノベーションという2つの機能を持っています。マーケティングは、顧客のニーズを知って市場を創り広げること。イノベーションは、新しい見方・考え方で、事業に良い変化を起こすことです。
医療の現場でも、患者さんのニーズを抽出し、新しい考え方で問題を解決し良い変化を起こすというのは大事なことです。現場のデータを集めて原因分析して新たな戦略を立てて実行し、妥当性を検証するのが私の手法です。不可能だと考えられていたことを可能にし、その結果良い方向へ変われば患者さんのためにもなります。