【一定の地位を占めている先行治療の枠組み中に,いかに入り込むか】
全肝照射の耐容線量は約30Gyと低いため,肝に対して根治線量の投与は困難であった。画像診断,照射技術が進歩して部分照射が可能となり,耐容線量が照射体積に強く依存することが明らかになって,肝臓への根治線量の投与が可能となった1)。放射線治療は『肝癌診療ガイドライン』に取り上げられるようになったものの,高い推奨レベルにはなっていない。
陽子線治療は,局所効果に優れ,非がん肝組織への放射線線量を最小にできるため,照射後に非がん肝組織の再生を期待できる。門脈,下大静脈などの脈管侵襲を伴った肝細胞癌は他の治療法が困難であることが多いため,特に有効である2)。多発する新病変に対して反復照射が可能であり,負担が少ないため肝予備能が限られている場合を含めて様々な病態の肝細胞癌に対する有効な治療法である3)。定位放射線治療も優れた治療法であるが,反復照射となると非がん組織の線量をゼロにできる陽子線治療は有利である。放射線治療の普及には,先行治療である手術,肝動脈化学塞栓療法,焼灼療法,ソラフェニブが一定の地位を占めている中にどのように入り込むか,という戦略が必要であろう。
【文献】
1) Stenmark MH, et al:Radiother Oncol. 2014; 111(3):418-23.
2) Sugahara S, et al:Strahlenther Onkol. 2009; 185(12):782-8.
3) Chiba T, et al:Clin Cancer Res. 2005;11 (10):3799-805.
【解説】
徳植公一 東京医科大学放射線科特任教授