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認知症の告知について[認知症患者とのコミュニケーション技法(4)]

No.4741 (2015年03月07日発行) P.31

梁 勝則 (林山クリニック希望の家院長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-14

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  • 認知症の告知は容易ではない。「痴呆症」が「認知症」と改称されてから,その言葉からすくい取られるイメージが随分と穏やかになった。しかし,「がん」を「悪性腫瘍」,「自殺」を「自死」と言い換えることと同じように,その本質的な意味・内容は破滅的で自己の尊厳やスピリチュアリティを足元から崩壊させてしまいかねない人生最大の深刻な出来事のひとつである。事実,オランダでは安楽死を選択する疾患背景として,認知症は一般的である(『認知症の人が安楽死する国』後藤 猛:雲母書房, 2012.)。筆者はがん患者(主に末期)と認知症患者の相当数を今まで診療してきた経験から,多くのがん患者がそうであるように,認知症患者も内心は認知症になってしまったのではないか,と気づいていることが多いことを知るようになった。2006年に精神科医や内科医ら約1000名に対して行ったある調査では,90%が「患者には病名を知る権利がある」と答えた。しかし実際には,すべての患者に認知症を告知している医師は8%で,72%が「場合による」であり,まったく告知していない医師も10%に及んだ。家族の反対も多く,医師は告知をためらっていることがわかる。一方,一般人に行った別の調査では,自分が認知症になった場合,告知を希望する人が8割を超えていた。この「患者は告げてほしい,家族は告げてほしくない,医師は告げられないでいる」という状況は,ちょうど数十年前の「がん告知」と酷似している。
    筆者は原則として,告知を希望する認知症患者には真実を告げる立場を取っている。米国のデータではがん患者の自殺率は平均値よりも3倍高く,がん患者の精神的サポート(緩和ケア)が強調されるゆえんである。同様に認知症の告知は,自殺予防をも展望したメンタルサポートとセットで行う必要がある。筆者は『真実を伝える』(ロバート・バックマン:恒藤 暁, 監訳. 診断と治療社, 2000.)の指針を認知症のインフォームドコンセントにも援用しており,「良くない知らせの伝え方」には疾患を問わず普遍性があると考えている。「がん→認知症」に言葉を入れ替えれば,ほとんどそのまま使える。

    1. 家族の了解を取る

    (1)家族が告知を望まない場合には,望まない理由を十分傾聴し,理解と共感を示す

    家族:「父には認知症だと言わないでほしいのです」
    医師:‌「どうしてそう思われるのか,もしよろしければ教えて頂けませんか?」
    家族:‌「父はああ見えても気が弱いのです。きっと落ち込んで絶望すると思います。父には『年齢相応の物忘れ』くらいに伝えて頂けると,今まで通りに朗らかに毎日を過ごせると思います」
    医師:‌「なるほど。お父さんが認知症と診断されて落ち込むことを心配されているのですね。そう思われるご家族の気持ちは十分理解できます」
    この時点では共感に徹し,「真実を告げることは医師としての責務です」といったような,医師自身のモットーを押し付けてはならない。押し付けは家族の抵抗的な沈黙か「父の性格を一番よく知っているのは私たちです。『認知症』という言葉だけは使ってほしくないのです」という反論をまねくであろう。二度とあなたの診察室を訪れないかもしれない。何よりも,以下のより患者・家族が受け入れやすい段階に進めなくなってしまうであろう。

    (2)その上で,もし患者が望んだらどうするか尋ねる

    その際,患者が望む以上の情報を提供したり,極端に絶望的なことを言ったりしないと約束する(すべての末期がん患者が決して失わなかったのは「希望」であった。『死ぬ瞬間』E・キューブラー・ロス:鈴木 晶, 訳. 読売新聞社, 1998.)。

    (3)‌それでも家族が納得しない場合は,「あなた自身が認知症になったら,正確な診断を告げてもらうことについてどう思われますか?」と余韻を残して,次回面談までの心境の変化を待つ

    家族の了解が得られた場合は「2. 患者との面談」に進む。

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