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慢性上咽頭炎に対する上咽頭擦過療法の作用機序は?

No.4934 (2018年11月17日発行) P.63

原渕保明 (旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授)

登録日: 2018-11-17

最終更新日: 2018-11-13

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慢性上咽頭炎の治療を行うと,他部位の併存疾患にも治療的効果が現れることがあると聞きました。考えられるその機序についてご教示下さい。

(埼玉県 N)


【回答】

【上咽頭擦過療法は慢性上咽頭炎による静脈路やリンパ流路のうっ滞を緩和することにより全身症状の改善にも寄与する】

慢性上咽頭炎に関連する症状は,①頭痛,咽頭違和感,咽頭痛,後鼻漏,首こり・肩こり,慢性咳嗽などの慢性上咽頭炎そのものによる症状,②浮動性眩暈,慢性疲労,起立性調節障害,全身痛,機能性胃腸症,過敏性腸症候群,機能性ディスペプシア,不眠などの自律神経・内分泌系異常による症状,③IgA腎症の急性増悪,掌蹠膿疱症,反応性関節炎,胸肋鎖骨関節過形成など自己免疫・自己炎症機序を介した症状の3群に大別されます。

塩化亜鉛溶液を浸した綿棒を用いた上咽頭擦過療法(通称,Bスポット療法)は1960年代に流行した治療法ですが,最近,その有効性が再認識されるようになり,慢性上咽頭炎による様々な全身症状の改善に寄与することが注目されています。
今回ご質問のその作用機序についてですが,①の症状は,上咽頭の炎症による痛み,膿汁流出,放散痛によるものと容易に考えられます。③の症状については,上咽頭は(口蓋)扁桃と同様に咽頭に分布するリンパ組織のワルダイエル扁桃輪のひとつを構成しています。したがって,IgA腎症,IgA血管炎や関節炎,掌蹠膿疱症といった扁桃病巣疾患と同様の機序で自己免疫・自己炎症性疾患が生じると考えられます1)

従来から議論されその病態機序が不明であったのが,②の自律神経・内分泌系異常による症状です。しかしながら,最近になってその機序として注目されているのが,上咽頭における静脈うっ血・脳脊髄液うっ滞による脳幹・視床・視床下部の循環障害説です。上咽頭では粘膜下に細静脈叢と毛細リンパ管が存在し,迷走神経求心路の末端神経線維が豊富に分布しています。一方,脊柱管内の静脈叢は,硬膜の間に分布し,脊柱管外の静脈叢と導出静脈を介して連続しています。

細菌,ウイルス,粉塵等の外因性アジュバントにより惹起された慢性上咽頭炎の状態では,免疫系のみならず細静脈,毛細リンパ管,迷走神経のすべての機能に異常が生じます。すなわち,静脈うっ血により代謝障害に陥った血管内皮細胞からは炎症性メディエーターが産生・放出され,血管透過性亢進・漏出性出血・滲出液漏出が起こります。一方,活性化リンパ球からは各種炎症性サイトカインが放出されます。

これらの炎症関連因子による毛細リンパ管拡張作用のため,静脈路やリンパ流路がうっ滞し,粘膜下浮腫へ至ります。その結果,軸椎など脊柱管外椎骨静脈叢の最上部のうっ血が生じ,脳底の静脈叢や海綿静脈洞のうっ血も起こります。そして,それらの静脈洞に流れ込む静脈系を持つ脳幹や,視床・視床下部の循環が障害されると考えられています。加えて,粘膜下に存在する迷走神経を主体とした自律神経線維の受容体は炎症関連因子により持続的刺激状態となり,自律神経過剰刺激症候群等の誘因となると思われます2)~4)

以上から,上咽頭擦過療法により上咽頭の炎症が緩和され,また静脈路や脳脊髄液路のうっ滞が改善されることが,慢性上咽頭炎に関連する症状への治療的効果の理由と考えます。

【文献】

1) 高原 幹:別冊Bio Clin. 2016;5(2):82-7.

2) Hotta O, et al:Immunol Res. 2017;65(1):66-71.

3) 堀田 修, 他:口腔・咽頭科. 2018;31(1):69-75.

4) 堀田 修:アレルギー免疫. 2018;25(6):794-801.

【回答者】

原渕保明 旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授

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