溶連菌感染後腎炎は,溶連菌感染10日~3週後の免疫反応による病態である
小児では自然軽快することが多いが,高齢者では注意を要する
抗菌薬では腎炎は予防できない
連鎖球菌感染後糸球体腎炎(post-streptococcal acute glomerulonephritis:PSA GN)(以下,溶連菌感染後腎炎)は,A群β溶血性連鎖球菌の感染後に発症する急性腎炎症候群のことである。リウマチ熱などと並び,溶連菌感染による非化膿性合併症のひとつである。すべてのA群β溶血性連鎖球菌で起こりうる訳ではなく,特定の腎炎を惹起する菌株が感染することで発症する。通常は前駆する上気道感染症や皮膚感染症があり,上気道感染症〔M蛋白血清型1,3,4,12,25,49(12型が最多)〕から平均10日後,皮膚感染症〔M蛋白血清型2,49,55,57,60(49型が最多)〕から3週間後に浮腫や血尿,高血圧などの症状が出現する1)2)。症状の出方には幅があり,無症候性の血尿から急速進行性糸球体腎炎を呈するものまで様々であるが,典型例は,血尿があり蛋白尿は軽度で,乏尿,浮腫,高血圧,急性腎不全などの症状で発症し,特に小児に多く自然軽快する。検査では,血清補体C3は低下するがC4は低下しないのが特徴的である。
わが国で溶連菌感染後腎炎を診る機会はかなり少なくなっているが,世界的には(特に発展途上国では)いまだに急性腎不全の最多要因であり,必ず想起すべき疾患である。先進国では,溶連菌感染の治療が容易になっていることや,水道水がフッ素化されていることが,発症率低下の一因になっているとされている3)。また,主に小児で多くみられ成人では稀とされているが,高齢者では発症率が上昇する4)。小児の発症例では予後は非常に良好で,ほとんどすべての症例で腎機能は正常化,もしくは軽度の腎機能障害ですむ。しかし,成人では発症から10年後以降に高血圧,持続蛋白尿,腎障害を有する率が非発症者よりも高くなると言われている5)。溶連菌感染後腎炎を発症したことのある青壮年期1500人程度を対象としたコホート研究では,溶連菌感染後腎炎を経験した患者はそうでない患者と比較して,発症から5年目以降に蛋白尿を呈する可能性が3~4倍になると報告している6)。成人の場合は必ずしも予後良好でないこともあるため,フォローアップに注意が必要である。
以降,具体的な検査方法や予防に関することを記述する。