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人身事故と罰則の不思議[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.73

相原忠彦 (愛媛県医師会常任理事/相原整形外科院長)

登録日: 2019-01-05

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すべての車の所有者に加入を強制されているのが自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)です。交通事故により負傷した場合は、原則として事故相手の自賠責保険を使って治療をします。

あなたが車を運転していて追突事故を起こしました。事故の相手が、頸が痛いと言って医療機関を受診して、頸椎捻挫の診断のもと自賠責保険を用いて治療が開始されました。

さて、あなたに交通事故による減点、反則金、行政処分が生じるでしょうか?

警察に医師の診断書を提出しないと「物損事故」として処理されて何等の罰則もありません。しかし、診断書が出されると、減点、反則金、行政処分が生じる可能性があります。つまり、同様事故の同様症状でありながら、医師の診断書の未提出という、実に簡単な方法で人身事故による処分等が生じない場合があるのです。

仄聞では、タクシーやトラックなどのプロドライバーにとっては運転免許が生活の糧で、減点を逃れるために警察に診断書を出さないように被害者に頼んだことが端緒のようです。

現在では、損害保険会社は被害者が警察に医師の診断書を提出しなくても自賠責で治療可能と説明し、加害者等が損保会社宛に提出すべき「事故証明書入手不能理由書」を損保会社が勝手に作成する始末です。その要因は、顧客への保険継続確保への期待があるようです。さらに、警察の対応として人身事故の処理が物損事故より面倒、所轄管内人身事故を増やしたくない等の忖度、被害者自身も加害者に対してお互い様という同情的な配慮も加わって、物損事故での処理が横行しています。

この手法は10年程前から加速度的に拡大し、現在では50%を超えました。つまり、人身事故であるのに、2件に1件が警察の事故証明書では「物損事故」として処理されているのです。その結果、警察庁公表の負傷者数は実態の数を大きく下回る数字となっています。上記のような加害者に対する不公平が生じる制度は、法治国家としてあってはならないと思います。また、警察庁の公表データが事実と異なることも是正すべきで、関係機関での真摯な建設的議論が必要であることは論を俟たないと思います。

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