昨年の国際学会“hydrocephalus 2018”は、10月にボローニャで開かれた。
出発直前、世界で活躍するオペラ歌手の中丸三千繪さんに話を聞く機会があった。オペラの起源に魅せられて渡ったというフィレンツェに思いを馳せたが、実際に肌で感じたイタリアは想像以上であった。
旅は、ローマからフィレンツェを経由してボローニャに入った。
そこは、紀元前から現代に至るまでの種々の起源の宝庫であった。古代ローマ人の生活をフォロ・ロマーノ、コロッセオで感じ、システィーナ礼拝堂、サン・ピエトロ教会やヴィエッキオ宮殿では息を呑むほど、ルネッサンス美術の栄華に満ちた空間に引き込まれた。写真で見た時とは違い、迫りくる壮大な壁画や彫刻の神々しさに圧倒されたのである。
人類が、芸術に身を注ぎ、これほどのものをつくり上げる時代は今後来るのだろうか。
海外の学会に参加するたびに文化の違いを実感し、刺激を受けることは多々あったが、ここまで、心を揺さぶられたことは今までなかったかもしれない。
女性に優しく、陽気な街。駅を颯爽と歩く青年は美意識が高く感じ、ローマ旧市街の昔ながらの石畳の細い路地では、ボコボコの小型車が弾みながら所狭しと駆け抜ける姿までお洒落に見えるから不思議である。まさに「ローマは1日にして成らず」である。
ボローニャの学会会場Enzoのあるマジョーレ広場に到着すると、四方をレンガづくりの建物で囲まれた石畳の上は、日曜日の家族連れ、恋人達で賑わっていた。目を閉じると、中世の街並みに吹いていた、当時の風の匂いまで伝わってきた。ボローニャ大学の一角には、世界最古の解剖台が現存保存されており、過去への畏敬の念が溢れ、まさに外科医の起源を感じることができた。学会発表のメインホールは天井が高く、私の声が反響して響き渡った。
何事も起源にあたり、歴史を学び、そこから今の自分の立ち位置を知ることは、とても重要なことである。医師としての初心を振り返り、明日からの診療を行おうと思った。