本稿は、前回連載(本誌4936号)の続編です。前稿では、経済産業省(以下、経産省)主導で進められている「全世代型社会保障改革」の予防医療への焦点化について説明し、それが目指す生涯医療・介護費の抑制は困難であることを示しました。
しかし、予防医療への焦点化には、前稿の最後に書いたように、予防医療を通した「社会保障の産業化」、ヘルスケア産業の育成・成長産業化とそれによる経産省の省益拡大というもう1つの狙いがあります。経産省的には、こちらが「本丸」です。本稿では、それが可能か検討します。結論を先に述べると、経産省自身の「推計」からも、それは困難です。
その前に、「社会保障の産業化」という表現についての私の2つの「既視感」を簡単に述べます。
第1の既視感は、「社会保障の産業化」による経済成長は、安倍晋三内閣に先立つ民主党政権も目指したことです。特に菅直人内閣が2010年6月に閣議決定した「新成長戦略」は、7つの「戦略分野」の第2に「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」を掲げました。
ただし、菅内閣と安倍内閣には根本的違いがあります。菅内閣は、「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」の一体改革を標榜し、医療・介護・健康関連成長産業育成のために、社会保障費を大幅に増やすことを目指しましたが、安倍内閣は逆に2012年12月の成立以来6年間、社会保障費の厳しい抑制政策を続けています。
第2の既視感は、これよりもずっと古く今から30年以上前に遡り、厚生省(当時)が1986年に発表した「高齢者対策企画推進本部報告」で、医療・福祉への民間活力導入を初めて提起したことです。この報告は、ねたきり老人等に対する民間介護保険や保健事業での健康産業の育成等を提起しました。
しかし、民間介護保険も健康産業もほとんど育成されず、その結果、2000年には(公的)介護保険制度が創設され、さらに2006年には公的医療保険が「生活習慣病対策」を実施することになりました。