(大阪府 H)
【狭窄度に応じて抗血小板療法を検討。高狭窄度の場合は外科的治療も視野に入れる】
頸動脈狭窄症は同側の脳梗塞を伴う症候性頸動脈狭窄と脳梗塞を伴わない無症候性頸動脈狭窄に分類されます。症候性頸動脈狭窄については抗血栓療法と心血管危険因子の管理は必須であり,中等度から高度狭窄例については最善の内科的治療に加えて外科的治療も考慮されます。一方で,無症候性狭窄病変に対する治療は動脈硬化危険因子の管理を主体とした内科的治療が基本となります。本稿では無症候性頸動脈狭窄病変に対する治療戦略を述べます。
まず日常診療でよく遭遇するIMTの肥厚や有意狭窄を伴わないプラークについては,加齢の影響を含めた動脈硬化を反映した所見であり,高血圧を筆頭に治療介入可能な動脈硬化危険因子があれば,生活指導および薬物治療が推奨されます。脂質異常症合併例にはスタチン製剤の投与が推奨されます。
スタチン製剤による頸動脈プラークの退縮効果についてはLDLコレステロールを10%低下させるごとにIMTが年間0.73%退縮すると報告されています1)。我々日本人の非心原性脳塞栓症患者を対象にプラバスタチン10mgの二次予防効果を検討したJ-STARS研究のサブ解析においても,5年間の観察期間でプラバスタチン投与群のIMT増加はプラセボ群に比べて有意に抑制されることが報告されています2)。一方,軽度狭窄例に対する安易な抗血小板薬の投与は脳梗塞一次予防効果が証明されていないだけではなく,出血性合併症のリスクが高まることから,推奨されません。
中等度(狭窄率50%以上)の無症候性頸動脈狭窄に対しては他の心血管疾患の併存や出血性合併症のリスクなどを総合的に評価した上で,必要に応じて抗血小板療法を考慮します。高度(狭窄率70%以上)の無症候性頸動脈狭窄では,抗血小板療法,降圧療法,脂質低下療法を含む最良の内科的治療による効果を十分検討した上で,外科的治療を考慮することが勧められます3)。
無症候性狭窄病変に対する外科的治療の適応については,プラークの性状や経時的変化を総合的に評価する必要があります。無症候性狭窄が症候性に移行しうる不安定プラークとは,組織学的に脂質コアやプラーク内出血を主体とし,薄い線維性被膜を有するとされ,頸動脈エコー所見では低輝度,辺縁不整,可動性を伴うものが挙げられます。また最も客観的な評価法であるMRIプラークイメージングではT1強調画像で高信号として表されます。このような不安定プラークを有し,最善の内科的治療を行っても所見の改善が得られない,または狭窄の進行が確認される場合には,周術期合併症のリスクも考慮した上で外科的治療を検討すべきと考えます。
【文献】
1) Amarenco P, et al:Stroke. 2004;35(12):2902-9.
2) Koga M, et al:Stroke. 2018;49(1):107-13.
3) 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン[追補2017]委員会, 編:脳卒中ガイドライン2015[追補2017]. 2017.
【回答者】
河野智之 神戸市立医療センター中央市民病院神経内科医長