(長野県 K)
【活動性低下の防止,感染防御のほか,認知症者が対応しにくい環境の変化を介護者がとらえて調整する必要がある】
冬季対応策として,認知症に限らず,高齢者に発症しやすい疾病や障害に留意する必要があります。
高齢者は,寒さのために身体を動かさなくなる傾向1)2)があり,身体機能や精神面にも影響を及ぼす3)といわれています。室内環境においては,部屋全体にいきわたる暖房器具の備えや防寒に配慮した家屋に住んでいるとは限らない上,エアコンなどの暖房器具は,部屋の上のほうに空気が対流するため,家の中でも床に近いところで生活する高齢者にとっては寒さを感じやすくなります。また,こたつなど暖をとる場所から離れると,途端に寒さを感じ,動くこと自体が苦痛になります。そして,動かないことで筋肉がこわばり,苦痛をさらに増強させます。
日頃,家事などで活動する機会があればよいのですが,認知症者は,自主的に活動する機会が減少するため,活動性が低下します。活動性の低下は,「閉じこもり」を引き起こし,転倒や廃用性障害など様々なリスクを高める4)だけではなく,活動と休息のバランスが崩れることで生活リズムが変調し,認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)を増悪させることがあります。
そのために,週1回は外出する機会を持つ,家の中での簡単な運動,たとえば,上肢の挙上や足を動かすなどを,生活の中に組み込みながら,介護者が一緒に行う時間を持つことだけでも予防につながります。
このほか,冬季感染症に注意が必要です。高齢者ではインフルエンザとノロウイルスが大きな問題となります。認知症者は生活リズムの変調から疲労の蓄積とともに免疫力の低下,認知機能障害による生活機能の障害から手洗いが十分できないもしくは行わないなど,自ら感染予防行動がとれない状況が生じます。また,加齢による体温調整能力の低下に加え,認知機能障害により室温などの環境や衣類の調整が難しくなります。その上さらに暖房器具の使用により湿度を低下させ,感染のリスクを高めます。そこで介護者が意識することは,手洗い,ワクチン接種,室温や湿度など環境や衣類調整,加湿器の使用等があります。
また,高齢者は加齢により皮膚のバリア機能が低下することで乾燥が顕著になる上,環境面の湿度低下は,瘙痒感の増強を促す要因ともなります。認知症者にとって,痒みなどの不快や苦痛をうまく伝えられず,対処できないことは,認知機能障害に影響を与え,易怒性,焦燥などのBPSDを誘発する要因となります。そのため,入浴の際には,身体をこすりすぎない,低刺激の石けんの使用,保湿ケアを行うことをお勧めします。
その他のリスクには,寒さや照度の低下等により意欲低下がみられ,活動,特に食事,入浴や更衣など生活活動に影響を受ける方もいます。食事量の減少による低栄養や脱水,衣類や環境調整ができないことで低体温や発汗による脱水のリスクもあります。
このように環境は認知症者にとって大きな影響を及ぼします。しかし,認知症者は認知機能障害により自分の状態の変化に気づきにくい,自分のニーズをうまく伝えられない,自ら変化に応じて調整や対応ができないことがあります。そのため,介護者が生活環境を調整するとともに苦痛をとらえることで,認知症者が安心・安楽に感じられるよう対応していくことが求められます。
【文献】
1) 工藤禎子, 他:保健婦雑誌. 1999;55(6):506-13.
2) 黒島晨汎:臨牀と研究. 2001;78(12):2122-5.
3) 吉田礼維子, 他:天使大学紀要. 2006;6:1-10.
4) 大内尉義, 他, 編:新老年学 第3版. 東京大学出版会, 2010, p1521-4.
【回答者】
杉山智子 順天堂大学医療看護学部高齢者看護学准教授