わが国におけるMSSA菌血症の治療の第一選択薬はセファゾリンである
βラクタム系薬剤はすべてMSSAに感受性があるが,セファゾリン以外のβラクタム系薬剤は治療効果が劣る可能性が指摘されている
持続性菌血症となった場合は人工物や膿瘍の適切な除去,ドレナージが必須である。セファゾリンにリファンピシン,ゲンタマイシンを追加することもあるが,効果はあまり期待できない
セファゾリンは中枢神経系への移行が乏しいため,中枢神経系の感染症を合併している場合は別のβラクタム系薬剤あるいはバンコマイシンで治療する。真に薬剤の髄液移行が必須な状態かは患者ごとによく吟味する
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus,以下S. aureus)は,人体の皮膚表面に常在する微生物だが,しばしば重篤な感染症の原因となる。主たる感染症が起きる臓器は骨関節と皮膚軟部組織である。そして,主に感染性心内膜炎とカテーテル関連血流感染症を代表とする血管内感染症が発現する。S. aureusが血液培養で検出された場合の,ほとんどが真の菌血症として対処する必要がある。S. aureus菌血症(S. aureus bacteremia:SAB)のマネジメントには,適切なフォーカスの検索と感染源の除去,合併症の検索が必要であり,SABに対する感染症専門医の介入が患者の予後を改善することが知られている1)。
S. aureusは,薬剤感受性によって,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin- sensitive S. aureus:MSSA)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant S. aureus:MRSA)にわけられる。近年は,医療機関における感染管理認定看護師(infection control nurse:ICN)の配置が進み,医療機関全体の感染対策が底上げされたためか,臨床検体から検出されるS. aureusに占めるMRSAの割合は低下しつつあり,厚生労働省によるサーベイランスでは50%を下回っている2)。MRSAは,βラクタム系薬剤に耐性があることから,治療に難渋する薬剤耐性菌の代表と言ってよいが,MSSAの感染症の治療も決して容易ではない。
本稿では難治性のMSSA菌血症の治療について,昨今の知見をふまえて解説する。
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