表皮水疱症は非常によく知られた難病のひとつです。大学病院などでは,出生後から成人期まで非常に長期間の受診を継続している患者もいます。気丈に受診する姿を見るたびに,きっと本人は日々の皮膚処置などを含めて,身体的・精神的につらい日々を送っているだろうことが忍ばれ,新しい治療方法の開発を切実に願わずにはいられません。現在,そして近い将来可能となる表皮水疱症の治療オプションについて,ぜひ大阪大学・玉井克人先生にご解説を頂きたいと思います。
【質問者】
村上正基 愛媛大学大学院医学系研究科分子機能領域皮膚科学准教授
【遺伝子治療,再生医療,新薬の開発が進められている】
表皮水疱症は,皮膚基底膜領域における接着構造蛋白群の遺伝的機能不全により,日常生活の軽微な外力で皮膚に水疱,びらん,潰瘍を形成し,重症例では全身熱傷様皮膚症状が生涯続く重篤な遺伝性水疱性皮膚疾患です。現在,世界中で表皮水疱症に対する遺伝子治療,再生医療,新薬の開発が進められています。
ラミニン332のβ3鎖欠損により全身の約7割が潰瘍で覆われた重症接合部型表皮水疱症に苦しむ7歳ドイツ人男児の遺伝子治療にイタリアとドイツの共同研究チームが成功したという報告が,2017年Nature誌に掲載されました。男児の残存する皮膚を採取して表皮幹細胞を培養し,レトロウイルスを用いてラミニンβ3鎖遺伝子を染色体に組み込んだ後,遺伝子導入表皮幹細胞で3次元培養皮膚シートを作成して潰瘍面に移植して略治状態に導くことに成功し,その2年後に男児が学校でサッカーに興じている姿がニュースで報じられています。
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